とある日、支部の朝

「おはよー・・・・ってあれ?黒澤とスーだけ?」
「あ、しーちゃん、えっとねゆきちゃんはね、んーっと・・・どこいったんだっけ?」
「無理に答えるなよ・・・ユキなら本部に報告書出しに行ったぞ」
「あー、そういえば書類結構溜まってたからなあ・・・」
「まずスーの報告の翻訳あったり、それをまともな文章にする作業があって・・・そりゃあ溜まるな」
「まあそれ以外も基本オレ達期限とか無視しっぱなしだからねえ・・・」
「・・・・それを纏めてるユキちゃん凄いね」
「あいついないとフリーダム過ぎて崩壊するな、この支部」

そんな遠い目をしながら支部の朝は過ぎて行く
そして肝心のユキはというと・・・

「・・・いくらなんでも10枚滞納はヤバいわよねえ・・・」

本部への道のりを進む、が、あまり足取りは軽やかでなく・・・

とりあえずうちの支部は間違いなく本部にとっての厄介者だろう、通称陸の孤島とよばれるくらいだもの、
特に上層部からの嫌われっぷりが凄い気がする。一部の幹部とかなにやらとは知り合いだったりするが、
それもやっぱり一部な訳で、たまに来る本部での視線が少し痛い

そんな事を考えてるうちに本部へ到着
とりあえず周りを気にしないで部署へと

「あらお疲れさん・・・まあ、いつもの事だからとよかく言わないけど、できれば早めにね?」
「すいません・・・いつもいつも・・」
「いいのいいの、気にしないで。・・・・今度きっちり言わないとねえ・・・シキにも」

と、話している相手はアンジェラ・ミュシャ、愛称はアン
どうやらうちのシキとは結構長い付き合いらしく、まああまり詳しくは聞いた事無いからどういう関係なのか詳しくはないけど

「そういえば今日はリーさんとか居ませんね」
「ああ、出張らしいの、だから今日はあたしの天下よ・・・!」

話題に出て来たリーさん、本部では知らない人がいないくらいの人、幹部の一人、本名は確か李・朝楊
そんなアンさんと離していると後ろの方から男の人の影

「天下でも何でも良いですけど、そろそろ会議ありますよ?アンジェラさん」
「あら、メーゼ・・・ねえあんたかわりに出てくれない?もともとあれリーが出るはずの会議だし、ああもう!出たら負けな気がするのよ!」
「どういう理論ですか、出てもいいですけど、李さんにどう説明するんです?」
「あんた何か言い訳しときなさいよ」
「・・・わかりました」

ふうっとため息をついたあと、そのまま彼は言葉を続けて
もの凄い笑顔で

「ではその引き出しの中の写真の言い訳も含めて李さんに説明しときますね」
「そうしてちょうだ・・・って何であんたそれ知ってるのよ!?」
「色々知ってますよ?その引き出し2段目の未使用のボールペンのプレゼント主とか、そのパスワードかかってるHDの重要書類の中の・・・」
「会議行ってくる!」

そういうと、猛スピードで顔を赤くしながらアンさんは部屋を出て行った
・・・なんというか、頑張って欲しい
そして、私にとってもこの空間から早く逃げたかったわけで、原因は・・・・

「じゃあ私も帰りますので」

そしてそのまま部屋を出ようとしたところ予想どおり肩を捕まれ
振り向くと予想どおり・・・

「・・・離してもらえます?メーゼさん」
「せめて挨拶ぐらいしてはどうですか、ユキ、ついでに食事でもどうですか?」
「とりあえずその敬語気持ち悪いんで失礼します」

とりあえず制止を振り切り廊下へと、でもやっぱり後ろから足音がついて来て、そのまま横に並び

「しかたないじゃないですか、本部では敬語のできるまじめキャラで通してるんですから」
「ただの黒くて嫌みな人の揚げ足とるストーカーチックな女たらしの間違いじゃなくて?」
「・・・言ってくれるじゃないですか、元上司で教育係に向かって」
「だからですよ、一応敬語で話してるだけましだと思って下さい」
「敬語にしては尊敬が感じられませんが」
「そりゃあ尊敬してませんから」
「・・・酷い」

そう、この人は一応、私が本部に居た頃の元上司で教育係のメーゼ
下の名前は一応イルジラと名刺には書いてあったが、「それ偽名」とあっさりと返された、だからといって
資料を探しても全部その名前になっていたので真相は不明、まあそれは置いといて、そもそもこの組織に入った原因も
この人

「まあまず出会いが最悪でしたし」
「ああ・・・カジノでね・・・・良い女だ思ったんですけどねえ・・・」

そう、出会いはまだ私がカジノでお金を稼いでいた頃
これでも昔からギャンブルはめっぽう強くカジノで一月で100万は稼いでいた、妹の学校のお金やらなにやらで
あの頃はまだ結構お金がかかっていて、そんなに溜まる事は無かったけど
その日も私はカジノいて、その中のバーでカクテルを飲んでいた



「・・・まだあの頃未成年ですよね?ユキ」
「・・・年齢バレませんでしたから、お酒とか飲んでても」



その時、いきなり声をかけて来たのがこの人
確か、横いいですか?と話しかけて来て



とりあえず、気にせずそのまま飲んでいた
カクテルの中の氷がカランとカクテルの中を転がって、ストローに張り付いた、コップの周りの水滴が霜へと変わる、
少しだけ酔って来たかなあと思ったところで、隣の席の男が

「何か寂しそうだ」
「はい?」

突然そういわれるとなんと反応していいのか
しかし、たまにいるのだ、こうやって口説いてくる人が
基本は何となく話に乗って、色々口説いてくる様を楽しむ、もしかしたらホントに素敵な人がいるかもしれないし・・・
まあ多分そんなに人生甘くないだろう、今までもむしろ苦難の道のりだったし
というかやっぱり出会いがナンパってのはどうかと思うんだ
酔った頭で自分でもよく分からない事を考えていると、まだ色々語っていたらしく

「とりあえず、この後どっか二人っきりにならないか?」

・・・すいません、とりあえずの前聞いてませんでしたのでなにがとりあえずなのかわからない・・・
まあでも流石にふらふらとついて行ったところで、どうなるのか、流石に私も知っているし、流れでそういう事もしたくないし

「んー・・・嫌」
「そっか・・・よし、じゃあこういうのはどう?」
「どういうの?」
「ここにトランプがある、これで勝負して、勝った方の言う事を聞く、これでどう?」
「・・・・いやって言ったら?」
「んーそうだなあ、これじゃあ君にメリットが無いな・・・」

そして少しの沈黙の後、彼が

「両親の事、知りたいんじゃないかな、ユキ・アルジェリー」
「!?、どうしてそれを知って・・・・・!」

間違いなくこの男は初対面、そしてこの数分の間にそう言う話をしてもいない、それなのに何で


「まあ色々聞きたいなら・・・」
「勝って・・・から?」
「そういうこと」
「・・・よし、受けるわ、その勝負」

勝負の方法はブラックジャック
ルールはまあわかるだろうけどまず2枚引き、それでも足りないなら何枚か引き、最終的に21に近い方の勝ち

「では・・・」
「・・・ホントにブラックジャックでいいの?勝負方法」
「技術うんぬんよりも運の要素強いからちょうどいいだろ?」
「まあね、それじゃ、始めましょうか」





そして勝負はと言うと

「私にギャンブルで勝てるとでも?」
「・・・何故勝てない・・・」
「とりあえずもう10回目だけどまだやる?」
「いいや、10連続で21あがりされたら勝てる気が・・・」

昔からギャンブル運だけは異常に強かった
だからこうしてカジノへ来て稼ぐ方が普通に働くよりも確実で
衣食住に不自由しない暮らしをするぐらいに金を稼ぐことは容易だった

「じゃあ、とりあえず両親の何を知っているのか、それを教えて?」
「うーん・・・まあなんというか・・・とりあえず俺はこう言うものなんだが」

そういって差し出された名刺には結果的に所属する事になる組織の名前と、
とりあえず今と変わらない役職とメーゼ・イルジラという名前がそこにはあった

「表向きはなんて事は無い普通の会社、裏では殺人やら強盗やら密輸やらと、まあ簡単にいえば裏社会の重鎮な組織だ」
「裏・・・」
「まあ自己紹介はそんな感じにして、両親の事話せって約束だったか」
「ですね」
「まあ何と言うか、とりあえずあんたの母親とはちょっとした昔の知り合いと言うか、でもここ数年は音信不通、だから居場所とかはまだ無理だけど、どんなやつだったとかは教えれるよ?」

・・・まあ少しは予想していた、そう簡単に居場所とかわかれば今までの私の苦労は何だったんだって話になるし・・・
でも見つけたいとも思うし
そして、両親が何処かにいなくなったのは私が5歳ぐらいの時、妹が3歳の時、
物心付いた時にはバレンシルクロス家に預けられており、そして14歳になる頃には自立していた

「あの、とりあえず教えてください、母のこと」

見た目の記憶もおぼろげで少しでも探す手がかりになればいいなと、とりあえずはこの人を信用することにした

「まずは・・・・小さいなあいつ、多分君より」
「そして髪の毛は気持ち悪いくらい白かったな」
「性格は・・・・何というかあれだ、元気というか、やることなすことが壮大というか・・、今流行のツンデレというか・・・」

・・・うん、何か微妙に母親に対する神秘感が消えてきた気がする

「とにかく自分が人生楽しむために他人を物凄い勢いで巻き込んでいく奴だったよ、すごく壮大に」
「・・・あなたも巻き込まれてた、と」
「まあ・・・・でも悪くは無かったよ」
「そうですか・・・」

でも、とりあえず今まで一つも掴めなかった母親の事が知れただけでも大きい、
いつかは探し出したい、そう願って今日まで生きてきたんだから

「とりあえず語れることは以上、んで・・・」
「ん?」
「うちの組織、さっき説明したとおり、色々なことやってて、色々なところにもいくんだよね、
多分両親探すにも手がかりはたくさん見つかるだろうし、
入らない?うちの組織に」
「ん・・・・」
「給料はざっとこれくらいでどう?」

そういって彼は懐から電卓を取り出し、何桁か数字を打って私に見せてきた、正直今までの稼ぎの倍はあった気がする

「う・・・・・・うん、やります・・・」

何と言うかお金に負けた感があって、少し悔しさもある・・・
こうして今現在まで居る組織に私は入ることになった







「んでその後1週間ほど本部にいて、マリッサ部長にセクハラされて凍らせて、僕が社会的にに抹殺して君は支部に移り、今に至ると」
「いや、セクハラは犯罪ですよ?というかカジノに居たあの頃私未成年なんですけど、
もしブラックジャックに勝ってたら本気で手を出すつもりだったんですか?」
「そりゃああのカジノの横にはゴージャスなホテルがありますし、裸になってまったりと・・」
「・・・凍らせますよ?」
「まあ過ぎたことはいいじゃないですか・・・さて、そろそろ僕も忙しいのでね」

そういって、彼は珍しくエレベーター前で引き返そうとしていた
普段はしつこいぐらいに着いて来るのに

「そういえば両親のことについて進展はあったんですか?」
「あー、妹も色々調べてますが・・・進展無いです」
「まあ、きっとそのうち見つかりますよ」
「だったら苦労しないんですけどね・・・」

そうしているうちにエレベーターがこの階に止まり、ドアが開く

「それじゃ」
「ええ、また」

エレベーターのドアは閉まり、ふうっと私はため息を付いた
何と言うか普段の支部があれなので、敬語はとても疲れる

「・・・どこにいるのかしらねえ・・・・・・・というか帰ったらまた書類地獄ね・・・ユーラナスのところで休んでから帰ろ・・・」








そしてエレベータの前から、再び部屋へと歩き出したメーゼは一言

「・・・意外と近くにあるかもしれませんよ?探し物は」

こつんこつんと、喧騒の中を

道化師は歩いていく

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