風の生まれる場所

風の旅立つ場所

ここですべては始まり

ここですべては終わった

風の始まる場所で




















「あ、次の休日、ちょっと出かけるから」

春の陽気が誘うような3月の終わりの日
この魔法学校ウィルオ・ウィスプの男子寮の一室で白い帽子をかぶった少年・・・・・スカイ・セットウインドが同室のカシスランバーヤードに向けてぼそりと呟く

「2日ともか?」
「まあ一日じゃ帰ってこれないだろうなあ・・・」
「何しにいくんだよ?」
「・・・・秘密」



「・・・で、今日はみんなに集まって貰ったわけだが・・・」

青一色の青空の下、朝の日差しが強く照らす、この駅前
まだ人もそんなに居ない中に、その5人は立っていた

「ふあああ・・・眠い・・」
「せっかくの休日なのに・・・」
「帰りたい・・・」
「まあスカイの事は気になるし・・・」

あくびしながらまだこの時期寒いであろうカッコで立っているのは、キャンディ・ミントブルー
目を擦りながら明らかに眠たそうにしてるのは、シードル・レインボウ
本気で帰りたそうにしているのは、ディン・サンレッド
そして一人だけ帰りたいと思って無さそうな、マイナ・ミルキーピンク
そして呼び出した張本人、カシス・ランバーヤード

「とりあえず、多分ターゲット・・・スカイ・セットウインドはおそらく今ブラットホームで汽車を待っている、何しに行くのかはいくら聞いても口を割ってくれなかった・・・・というわけで俺達は尾行して真相を暴こうと思う」
「こんな大人数で行ったら絶対ばれると思うよ・・・」
「まあ見つかったときは見つかったで良いんじゃない?どうせ電車の中だったら行きざるを得ないし」
「まあマイナの言うとおりだ、村に着いたら道案内はスカイと同郷のディンに頼む」
「その為に連れて来られた訳か・・・」

朝寝てるところをそのままマイナに拉致られた理由がやっと分かった気がした

「てか発案者誰・・・・カシス?」
「いいや、それがマイナだ」
「はーい、昨日その話をカシスに聞いてさあ・・・うん、ここは幼馴染みとしてはほっとけないと思って」
「いや、ほっといてあげようよ・・・」
「んで面白そうだったから付き添いで私が」

取り敢えず現在の状況は
追跡賛成派:マイナ(隊長就任)、カシス(参謀)、キャンディ
追跡反対派:シードル
もうなんかどっちでもいい派:ディン
となっている

「ねえ、僕帰って良い?」
「いいや、駄目だ、ここまで来たら最後まで来い」
「そうだよー、せっかくだし、確かあの村自然一杯だから絵描く参考にもなるよー」
「美術室にばっかり引きこもってるとコケ生えるよー」
「・・・・わかった、行くよ・・・ってコケって何さキャンディ・・・」
「何かじめじめしてそうだもん、あそこ」
「・・・・まあ反論したい気持ちは一杯だけど、今は疲れたら嫌だからやめとくよ・・・」

とりあえず行くことは決定した5人はスカイから遠く離れた車両に乗り込むことにした






電車の中
朝なので人はまばらだが、5両ぐらい離れてるので大丈夫・・・・だと思う、とりあえずゆったりする

「にしても何しに行くんだろうね・・・ただの帰省だとは思うけど」
「なら秘密にする意味が無いじゃない」

シードルとキャンディの討論に丁度真ん中に挟まれる形の眠そうなディンが凄い嫌な顔をしている

「・・・・昔の恋人に会いに行ったとかな」

カシスのその発言にびくりと反応したマイナ
その様子を見てたカシスはにやけながら

「お、なんだ?恋人って言葉に凄い反応したな?」
「やっ・・・・してないってば!」
「なら何でそんな動揺する?」

こういう状況のカシスから言い逃れるのは殆ど無理
しかし今日この場には彼がいた

「ディン!スカイって村にいた頃恋人いた?」
「・・・さあな、俺はしらん」

希望潰える

「さーあ、これで恋人説が可能性高くなってきたぞ?」
「う・・・別にその時はその時で良いもん・・・」
「顔赤いぞ?」

そんなんじゃない、好きとかじゃないんだけど・・・何だろう、未だによく分かってないこの気持ちは・・・

取り敢えずこれ以上は墓穴を掘るだけだとおもったのでそのまま窓の方を向く、カシスも反応がないと楽しくないのか、そのまま黙った

どんどんと、汽車は海岸沿いを進んでいった






汽車の旅も飽きて、取り敢えずみんなでトランプを始めた
大富豪にて、ディンの圧倒的な強さ、シードルの圧倒的な弱さで戦いは終わった

「ふう、そろそろ着くか?」
「あと15分ぐらい・・・ホントに2時間かかるんだね・・」
「ったく・・・横五月蠅くて全然眠れなかったし・・・」
「長い道のりだったね・・・」
「遂に真相が・・・」
「そうだな・・・で、どんな真相なんだ?」

時が固まった
今この場には5人・・・・のはずなんだが、明らかに6人の声がした

おそるおそる振り返るとやっぱりいた
ターゲットのスカイ・セットウインド

「いつ気付いた!?」
「駅前で相談してる辺り」
「あそこで気付かれてたんだやっぱり・・・」
「てかならすぐに出てくれば良かったじゃねえか」
「俺だって朝早いから無駄な労力使いたくないもん、追い出してもどうせ着いてくるだろうしさ」

スカイは盛大に溜息をついて

「ここまで来たら仕方ないから・・・・・とりあえず着いてくることを許す」
「え、いいの?」

マイナがきょとんとした顔でスカイに言う

「別に俺が金出してるわけじゃないし、この汽車、特急だから途中で停車しないし・・・」
「取り敢えず理由を聞かせて貰おうか、この帰省の」
「まあ、そこは後で良いだろ、どうせ着いてくれば分かることだし」
「まあそうだけどさ・・・・そんなみんなに言えないことなの?」
「言ったらみんな騒ぐだろうし・・」
「・・・・」

その場でマイナは何も言えなくなっていた




その後列車は駅に到着し、遂に着いたライトブルー村
海と山に包まれ、港には店が集中し、山の方には家がぽつぽつと並んでいた、空気はコヴァマカよりおいしく、空の青さも透き通るような青
汽車しか交通手段がない事を除けば文句無しに良い村だった

「んで何処に向かうんだ?」
「駅前で待ち合わせしてるんだけど・・・あ、いたいた」

スカイの視線の先にいたのは桃色の帽子を被った金髪の少女
皆が本当に彼女か!?と身構えたが、女の子の第一声でそれは全て覆された




「あ、お兄ちゃん、お帰りー」
「うん、ただいま」


・・・・・・・・・・・・


「「「「「お兄ちゃん!?」」」」」
「うん、普通に妹」
「・・・妹いたなんて初耳だぞ・・」
「言ったことなかったし」
「というか妹さんなら別に言えば追いかけられることも無かったんじゃ・・」
「・・・・さっきみたいに騒がれると面倒だったんだよ・・・」
「・・・・よかったあ・・・」

驚きの声の中にひとつだけ安堵な声のマイナ

「ん?なんか言った?マイナ」
「な、なんでもないってば」

スカイに聞こえてたらしく、慌てて否定しておく

そしてスカイの妹はこちらへ走ってきて


「・・・・この人たちは?」
「クラスメート、人員多いほうが良いかなあと思って」
「あ、はじめまして、シズクです」
「・・・人員?」

後ろの全員の頭の上にハテナマークが浮かんでいるであろう

「あ、そうそう、シズク、来週からウィルオ・ウィスプ通うからその荷造り手伝ってね」
「・・・・おまえ、それ狙ってわざと気づいてない振りしてただろ・・・」
「うん」

平然と認めたスカイに後ろの方でシードルとキャンディは

「・・・・・スカイってさ、案外腹黒いよね・・・」
「だね・・・・」

「というわけで、皆さんを家へ招待」
「・・・ごめん、今は全く嬉しくない・・・」
「スカイの家かあ・・・・」
「まあ、ここまで来たからね・・・手伝うよ」
「あたしもー」


というわけで、スカイ宅へ招待された一同
シズクの先導の元、少し繁華街から外れた場所にある一軒の家が見えてきた。

シズクはそこへ走っていくと家の前で止まり

「ここが家ですー。どうぞー」

「「「「おじゃましまーす・・・・」」」」
「あ、いらっしゃーい」

そう言って出てきたのは茶色い長髪に雰囲気がふわふわとした女性だった
その女性はにっこりとほほえんで

「どうもエレリアです、息子がいつもお世話になっています」
「あ、いえいえ、こちらこそ」

この中で一番礼儀が良いであろうマイナが返事する

「あらあら、ゆっくりしていってね」

そうして、リビングへ案内され
お茶を一杯頂いて、くつろいだ後、シズクの部屋へ移動する一同


「とりあえず全員でやるのは非効率的だから・・・・あ、そうだシズク」
「何?」
「必要なもの自分で買ってこい、シードルでも連れて行って良いから」
「わかったー、行こう、シードルさん」
「あ、うん・・・って僕一人?」
「頑張れ」
「・・・まあいいけどさ」

こっちを見ずに親指を立てて頑張れと言い放ったスカイを少し恨みつつ
シズクに連れられ家を出る
そしてそのままスカイは向き直し

「よーし、残った男性陣で家具を外に運び出し、女性陣は服とか纏めて」

残りのメンバーに指示を与え、そのままリビングへ戻ろうとして・・・・後ろから思い切り叩かれた

「「「「お前もやれ」」」」
「冗談だってば・・・」

少し涙目でスカイが弱々しく言った








空は快晴、空気も綺麗風景も綺麗、絵を描くには絶好の機会だなあと思いながら歩いていく

「すみません、付き合わせてしまって」
「いやいや、いいよ・・・あと、敬語も止めない?」
「え・・・でも・・」
「大丈夫、多分そんなに年齢離れてないし、堅苦しいのは抜きにしてさ」

彼女はその場でしばらく考え込んだ後
こちらに振り向き

「じゃあ・・・よろしくね、シードル」
「うん、よろしくね」
「ちなみに・・・・何歳?」
「えーっと・・・14歳」
「あ、同い年だー」
「ホント?」
「うん、あー周りに同い年の人あんまり居なかったからちょっと嬉しいかも」

そう言って笑いかける彼女に一瞬見とれてしまう自分がいた
いつもとは違うようなこの気持ち、今はまだこの気持ちがなんなのかわからないけど。
だけど、自然とこっちも微笑んでしまうその笑顔に確実に魅了されていた









「そういえばさぁ」
「ん?」


こちら家組、服を畳む作業を繰り返していたキャンディがふと思い出したように漏らした言葉にスカイは小物を整理する手を止めて振り向いた

「シズクちゃん、寮のどの部屋に入るの?」
「確か・・・オリーブと同じだったと思う」

基本的に学校の寮は二人一部屋になっている場合が多く、大体は相部屋になる。希望ならば一人部屋にもして貰うこともできるが大体はそのまま住んでいることが多い。相部屋の相手は大体同じクラスの人となるようになっている。

「てことはうちのクラス入るんだ・・・あー楽しみv」
「仲良くしてやってよ、苛めたりしたら本気で怒るからな」
「大丈夫大丈夫、そんなことするやつうちのクラスに居ないしさ」
「その辺は安心だけどさ・・・・でもそれとは別に手出すような奴いるからなあ・・・」

そう言って思いっきり全員がカシスの方を向いた

「・・・なんだその確信持ったまなざしは」

「いや、絶対口説きそうだし」
「お前に妹はやらないぞ」
「純粋そうなあの子をカシスの毒牙にかけたくない」
「とりあえず諦めろ」

「・・・・そんなに信用無いか俺は・・・」
「「「「うん」」」」

はっきり断言されて少し落ち込んだカシスだった


























「へえ・・・・・いろいろ揃ってるんだねえ・・・」
「港町ですから、いろいろなもの集まってくるんですよ」

傍から見ればデートしているようなシズクとシードル
現在は街中を歩いていた

「それで・・・何買えばいいの?」
「えっと・・・・お茶と、ジュースと、お菓子・・・・」
「・・・・これって・・・」
「・・・多分後で出すためのだよね・・・・」
「・・・・・お菓子買い出しですか僕ら・・・・」


二人で溜息を吐きつつ、何とか立ち直り
シズクが

「・・・うん、買うついでにこの街案内してあげるよ、初めてでしょ?」
「あ、ありがとう」

そうして二人はそのまま足を進めていく
まだ昼前の町中は少し人も少なく、ゆっくりと時間が流れているような気がした、風もまだ少し寒い

そんな中を二人で歩き進め、とりあえず一通りお菓子やお茶などを揃えた
時間にして30分ぐらい

「・・・・あっさり揃っちゃったね・・・」
「まあスーパー行けば揃っちゃう物だからねえ・・・・」

金色の髪がさらさらとなびくのを抑えながら彼女は
んーっと少し目を瞑りながら考え込む
そして目を開け、そのまなざしをシードルに向けて

「もうちょっと買い物付きあって?」
「何か必要なものでもあるの?」
「うん、ちょっと」

そう言ってそのまま村の外れの方へ向かい
一軒の服屋へ来た




「それで何買いに来たの?」
「えっと・・・・帽子を・・・」
「帽子?」
「うん、結構好きで色々集めてて・・・」
「そっか・・・・」
「それでさ・・・選んで欲しいんだけど」
「え?僕が?いいの?」
「うん、せっかくだもん」

そんな真っ直ぐな瞳で見つめられたら断れるわけないじゃないですか

「うん、わかった」
「やったーv」

一気に顔がぱああと明るくなり、見てるこっちまで嬉しくなってしまう
とりあえず、帽子売り場の前に着き、選ぶことにする

「どんな色が良いかなあ・・・・」

彼女の服を見る限りパステル系が合うような気がするのでそっち系の色を探していく
白・・・水色・・・薄紫・・・オレンジ・・・桃・・・
桃かなあ・・・・

「これなんかどう?」

選んだのは大きめのピンク色の帽子、何となく、一番彼女に似合うと思ったから。
彼女はしばらくそれを手に取り見つめ、顔を上げて

「ありがとうっ!凄い気に入った!」

本日最高の満面の笑みを浮かべて、彼女はシードルに礼を告げた
そんな笑顔で見られたら、もう・・・・

・・・惚れるなってほうが無理だって・・・・


「・・・?シードル?」
「・・あ、あ、・・な、何?」
「いや、ぼーっとしてたからどうしたんだろうって思って」
「あ、大丈夫、何でもないよ」
「それならいいけどね」

一回気になってしまうと一緒にいるだけでドキドキしてしまう
さっきまでは全然平気だったのに

シズクはそのままレジの方へ向かったが
途中のアクセサリー売り場で止まる
そしてその中からミサンガを選んで

「これさ、シードルに買うね」
「え?いいよ、お金もそんなに無いだろうしさ」
「いいの、買い物付き合ってくれた感謝のしるしに、ね?」
「・・・・ありがとう」

お互いに笑顔になり、店を出た時に香った春の香りを忘れることはないだろう
この季節に咲き誇る桜の香り、そしてこの街の綺麗な空気
まるでこの街だけ異世界のようだった



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