空が夕日に染まるとき

私の心も染まっていき

あの頃を思い返しながら

今日も帰り道を歩く







日が暮れるのも早くなってきた秋この頃
落ち葉はヒラヒラと風に舞ってから、ひんやり冷たい地面へ
そうして落ちた落ち葉をシャリシャリと踏みしめながら校門へと歩いた

「大分冷え込んできたね・・・」

少しオレンジに染まり始めた秋空を見上げながら水色の髪をした少女
マイナ・ミルキーピンクは嘆いた
これから一気に暮れ始める空、その刹那の紅く染まった雲、オレンジの夕日がとても好き
そんなことを思いながらふと後ろを振り向くと、まあ当然のように校舎が見えた、そしてふと目に付いたのが・・・・

「あ・・・・シードル」

影が濃くなり始めた



















秋の夕暮れがもうすぐ来る、オレンジ色は嫌いではないけど
今書いてるこの絵には多分合わないだろう
と、窓の外を覗くとそこには

「あ、マイナだ」

もう寮へ帰るところなのか、校門の傍で空を見上げていた
元気いっぱいな性格なんだけど、どこか優しげで、そんな彼女
しばらくぼーっとしながら外を眺め
とりあえず足に絵の具が落ちてはっと気を取りなおして再びキャンパスに体を向ける、影が長く伸びる

キャンパスはまるで空のよう

真っ白なこのキャンパスに、百色の中から一つ選んで
一つ一つの色が生き生きとパレットを駆け回り
重なり合って、一つの形を表現していく
その時、その気分でしか表現できない、たった一つの形

例えば赤い花、ただ赤で塗るのは簡単、だけど赤を表現するために紫、緋、黄、など、色々重ねることで人とは違った赤が表現できる
たった一つ、世界で一つだけの絵、だから絵は楽しい





「やっぱ綺麗だねー、シードルの絵」

突然背後からの声
風に流れるような透き通った声

「うわっマイナ、いつからいたのさ君!」
「えっと・・5分ぐらい前かなあ・・・・、気付かなかった?」

正直さっきまで校門の辺りにいた彼女が何故かここにいることに相当驚きながらも、ああ、また熱中して時が早く過ぎたんだろうと思った

「てか帰るところじゃなかったの?みんなはもう帰ってるし・・・」
「うん、帰ろうと思ってたんだけど、なんか校舎見たら美術室にシードルいたの見えて、暇だから来ちゃった」

彼女は微笑みながらそう答えると、再び絵に視線を戻して

「何描いてたの?」
「抽象画、秋のイメージで」
「秋か・・・そういえばもう秋だよね・・・・」
「結構前から秋じゃなかった?」
「まあそうなんだけど・・・こういうときはもう秋だよねって言うのが定番だし」
「時期考えようよ・・・・」

とりあえず再びパレットを片手に持ち再びキャンパスに向かう
けど・・・

(人居るってだけで結構描きづらくなるなあ・・・)

何というか、意識が一点に集中しないと言うか
そんなことを思いながら後ろを振り向くと彼女は窓を開け、空を見上げていた、水色の髪に光が降り注ぎオレンジの夕陽の光と合わさって、まるで風のように見えた

空が夕陽の光に染まっていく
そして彼女は何かを決意したかのようにうんと一人で相槌を打ち

「よし、決めた」

どうしたの?と聞く前に彼女はイスとキャンパスとイーゼルを持ち出して、窓の傍に設置した

「もしかして・・・」
「うん、絵描くの」

そう言えば彼女は自分と同じ美属性、絵描くのも好きだったはず
得意なのは確か・・・

「風景画?」
「うん、やっぱ夕日綺麗だし、絵に納めておきたいじゃん」

彼女は良く空を描く、そう言えば何でなんだろうか

「そういえば空結構描くけど好きなの?」
「うん、好きなのもあるし、何か、無限に続く感じがいいよねえ・・」

この辺、彼女は結構ロマンチスト、自分とは正反対
空想と現実と

「でもさあ、ホント空って綺麗だよねえ・・・」

そのまま空を見上げながら彼女はそう嘆いた
夕焼けの光が眩しく輝いて、少し目を細めていた

「夜空とか、綺麗で好きかな、僕は」
「夜空かぁ、綺麗だよね、流れ星とか願い事しちゃうもん」

しかし、そのあと「あ、でも・・・」と彼女は言い

「やっぱり夕焼けとか朝焼けとか、オレンジ色の空好きだなあ、一番」

にっこり微笑まれて、すこし恥ずかしくなった















いつの間にか、大体の色が塗れていた、かなり描くのは速いほうらしい

「・・・・早いね、いつものことながら」
「あまり塗り重ねても暗くなるだけだし、それなら気に入った色出来て終わりにしておいた方がいいじゃん」
「まあそうなんだけどね」

そうなんだよなあ・・・自分の好きな色を塗ればいい
それが絵のもっとも基本的なところ、そして自分の好きな世界が出来る







スカイに見つかったらいろいろ言われるだろうなあとか思いながら










「・・・よし、大まかなところ完成ー」
「・・・上手いね、風景画」

正直、自分よりも
キャンパスに広がった世界はどこか明るくて、どこか優しくて
まるで彼女の性格のように
オレンジに染まった空に、淡く赤くなった雲が浮かんで、カラスが1羽飛んでいる

「そんなこと無いよ、シードルだって抽象画とか私描けないもん、難しすぎて」
「でも抽象画描いてると何故か風景画って描けなくなるんだよね・・・」
「なーんか正反対だよね、私達」
「そうだね」

どうやら彼女も同じ事を考えていたようだ

そして、外が一層眩しくなってきて
カラスも群を成して空を羽ばたいている

ソラガユウヒニソマル

「・・・綺麗・・・夕日」

彼女は後ろで腕を組み夕焼けを見つめていた
じーっと、時が止まったかのように
窓から吹く風で髪がさらさらとなびいていた






空が夕日に染まるとき、彼女は一体何を考え
誰を想って、この空を見つめていたのだろうか

−−だれのいろにそまったの?そのこころは−−

いつの間にか、そんなことを考えていた







「じゃあ、私は帰ろうかなあ」

彼女はそう言った後再び鞄を抱えて、さっき開けた窓を閉める
もうすっかり暮れていた空を寂しそうに眺めていたが、直ぐにこちらに向き

「じゃ、明日も来るね、あの絵完成させたいし」
「あ、それは別にいいけど・・」
「うん、それじゃあね」

そう言ってドアへ向かって歩いていく、そのまま振り向かずに行くのかと思ってキャンパスへ向き直したのだが、意外にも彼女はそこで立ち止まり、こちらを向いて

「あと、シードルにも会いたいし、それじゃあねー」

今度こそ、足音は遠くなった





「・・・・心臓ドクンドクン言ってるよ・・・」

彼女は時々さらりとドキッとすることを言ってのける
本人にその気はないんだろうけど






空が夕日に染まるとき、僕の心はあなたで染まっていく




「さて・・・・描くかな・・・」

再三筆が止まっていて、すっかり何色かの絵の具は固まり始めてるんだけど、気を取りなおして再び筆を走らせる

たまには夕焼けもいいかなとか思いながら、背景に夕焼けを足してみた
意外にも合っていて少しビックリしたけど、なんか必然のような気がした
なんでかはわからないけど





とにかく、明日の夕暮れ時、彼女はまた現れるだろうから
その時にでもこの絵を見せてみようか
空が夕日に染まるとき、アナタイロが空を染めていく


++終わり++


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