届いて欲しい、すごい届いて欲しいのに伝わらない思い
それでも、それでも伝えたくて、出来れば答えて欲しくて
【春風の頃に】
その日はいつものように空を見上げて、いつものように屋上で寝てて(授業は2時間出てた)いつものようにすごしていた
だけどいつもとひとつだけ違うことがあった
階段の方から音がした、いつものようにマイナが起こしにきてくれたのかと思ってそのまままた目を閉じた、ドアが開く音がして、その足音が止まった、しかし、その後の声は自分が想像していたものじゃなくて
「スカイー、ちょっと聞いてー」
「・・・・・・キャンディ?」
昔から知ってはいる、それこそマイナ並に付き合いの長い友人
同じ風属性ということで仲も良かった
「ガナッシュがいないの!」
「・・・俺が知るかよ・・・」
「や、今昼休みだし、常に外にいるスカイなら知ってるかなって」
「屋上には来たことは無いからなあガナッシュは、カシスはよく見かけるけど」
スカイはとりあえず起き上がり
「あの裏庭の木の所でいつもみたいにハーモニカでも吹いてるんじゃないの?」
「ここに来る前に当然見てきたんだけどいなかったのよ・・・・どこ行ったんだろう・・・」
キャンディがガナッシュに対して恋心を抱いてるのは承知の事実であって、それはもうクラスのほとんどが知ってるわけだが(とりあえず彼女に恋心を抱いてるキルシュでもそこは気付いてると思う、流石に)
「他は探した?」
「ええ、美術室も体育館も男子トイレも各教室も全部探したわ!」
「待て、トイレは駄目だろ」
「いいや、ガナッシュに会えるならたとえ火の中水の中部屋の中!」
「やめい」
とりあえず軽く突っ込みを入れて
「んで、俺にどうして欲しいの?」
「一緒に探して?」
「やだ」
即答
が、流石にじーっと睨まれたので
「・・・お願いV」
「・・・・わかった、で、どこ探すつもりだ?」
「ほとんどの場所探したから・・・・早退したのかもしれないから寮の部屋探してきて!」
というわけで、ここまで来そうだったキャンディを男子寮の玄関で待たせ、ガナッシュの部屋の前
「いないだろうなあ・・・・・流石に」
でもなんとなーくだけど、嫌な予感がする、何かこの後凄い面倒なことに巻き込まれそうな、そんな予感
とりあえず、ノックをする、予想に反して奥から声がした
「スカイだけど、どうしたガナッシュ、早退か?」
「・・・ああ、ちょっと気分悪くてな」
ふと直感が走る、ここでこのドアを開けるともの凄い不幸に襲われる気がすると、そう脳が告げている
こういう時は素直にここから去るのが一番だと、キャンディにどうつたえようかと考えたが、伝えると多分速攻で部屋に入って行くだろうし、嘘を伝えればそのまま夕方までつれ回されそうだし、どうしたものかと考えた
いや、多分そんなことを考えないことがこの場での一番の解決法だったんだと思う、廊下からどんどん近付いてくる明らかな気配からもう逃げられそうにない
「ガナッシュいたのね!?大丈夫ガナッシュー!」
ばんっとそのトビラは開けられた
その部屋に居たのは、ガナッシュ本人と・・・・・少し赤めの桃色の長髪の女の子だった
この瞬間、本日のスカイの運勢が地に落ちた
「・・・・いたのかセフィ」
「・・・えっと・・・はい」
いや、この女の子を知らないわけではない、隣のクラスのセフィ・ウィザード、文句なしに美人と思える見た目に、しっかりとした性格
そして・・・・・ガナッシュの幼馴染み
彼女とも昔からの付き合いで、彼女がガナッシュをただの幼馴染みと思ってないことも知っている
だからこの状況は招きたくなかった
この場には一人の男とそれを好きな二人の女、そして完全に部外者なのにこの場にいる男が一人
正直逃げたい
「あーら、セフィ、ひさしぶりー」
「あら、元気にしてました?」
静かに、だけど確実にそこにある火花
多分ガナッシュも気付いてないわけではないとは思う
だけど当人ですら立ち入ることが許されないような女同士の戦いがここに始まろうとしている
「どうしてここにセフィがいるの?」
「あの、ガナッシュが保健室から気分悪そうに出てきたので、偶然通りかかった私が寮まで連れてきたんです」
二人とも笑顔なのがなお恐い
「そうなんだー、じゃ、あたしが後は面倒見てるから教室戻っていいよ?」
「いえ、幼馴染みとして今日は面倒見て行くので、心配しなくてもいいですよ?」
空気が痛い、今にも爆発しそうなそんな空気だった
正直そろそろ帰りたい
「いやいや、あなたいないとあなたのクラスの人が困るでしょう、うちのクラスはディンとかブルーベリーいるから平気だし」
「そこまで重要人物ではないですよ私は、きっとフィンあたりがちゃんと纏めてくれるでしょうし」
フィン・ファーオレンジ、最近マドレーヌ先生に弟子入りしたと噂になっている、たまーに隣のクラスから爆発音がした時は大体彼女が力づくで止めに入った時だといわれてるほどの猛者
とりあえずこの冷戦はほっとくと永遠に続きそうだったので
ガナッシュと目で会話し
キャンディを引っ張って帰ることにした
しかし、ガナッシュのことになると梃でも帰らないのがキャンディ
でもどうにかして連れて帰らないと行けないのが今回のミッション
「ほら帰るぞ」
「やーだ、あたしはずっとここにいるの!」
・・・・・こりゃあ何言っても帰らないな・・・・
ふうとため息をついて
とりあえず、無有を言わさずに
抱えて運ぶことにした
「ちょっ!スカイ邪魔しないで!」
「今日は諦めろ、んじゃ、おじゃましました」
そう言ってキャンディを抱えたままこの場を去った
「あー、もう出遅れたあ・・・・・」
「故意は偶然に勝てるわけ無いんだから諦めろって」
また場所は戻って屋上、なんだかんだでもう昼は過ぎていた
連れて帰ってる途中で諦めたのか、大人しくなり
今は屋上のフェンスに寄りかかっている
「最近はさー、何かオリーブもガナッシュの傍にいるし・・・本格的にピンチなのよ・・・」
「・・・あれで凄いモテるからなあ・・・ガナッシュ」
ぱっと見近付き難い印象なのだが、ちょっと喋ると以外と答えてくれて
それで惚れる人が多数、もちろん見た目も悪くはないのでそれで惚れる人も多数、さすがうちのクラスの御三家に数えられるだけある
「あー駄目だ、もうここから飛び下りたい」
普段に無いほどネガティブな彼女を見て、ちょっといたたまれなくなって
とりあえず横に腰掛ける
そして彼女の頬をむにゅっと摘む
「何!?」
「まああれだ、面倒だから誰の味方するわけでもないけどさ」
そのまま、視線を彼女に向けて
「今日みたいに落ち込んでる時は、いつでも愚痴ぐらいは聞いてやるから」
「・・・・・それって慰めになるの?」
「・・・・ごめん、慰めの言葉思い付かなかった」
「・・・・ま、そこまで言うなら、これからもみっちりとガナッシュとの惚気話に付き合ってもらうから!」
急に立ち上がり、びしっとこちらを指差しながらハッキリと言った
「ガナッシュが惚れる前提なのかよ」
「そんな気持ちでいないと恋愛なんてやってられないわ!」
「断言するなよ」
ま、でもいつもの調子に戻ってよかった
落ち込んでる顔は似合わないしな
とか思いながら
その日は夕方まで彼女の話に付き合った
次の日
「ガナッシュ!体調よくなった!?大丈夫?熱無い?」
「あ、ああ・・・大丈夫だからそこまで顔近付けるな」
彼女のテンションも何時ものようにもどり、いつものごとくガナッシュへの猛アタックがドアの前で繰り広げられていた
でも昨日出遅れたせいか、いつもの2倍の勢いで
そして自分は遅刻だけはしない主義なので何時ものように自分の席につき
その様子をぼーっと見守っていた
しばらくしてチャイムが鳴り、席に戻ってくる時にキャンディがふとこちらを見て微笑んだ
もしかしたらその恋は実らないかもしれない、だけど、その恋に決着が付くその日まで
少しでも役に立てたら、そんな些細な願い
小さな願い
**終わり**
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