その風景を、今でも覚えている。


花火が上がる夜空の下、そこで出会った女の子に初めての恋をした。
少し茶色がかった長い髪を後ろにちょこんと束ね、ピンク色の浴衣を着ていて、
二人で手をつないで空を見上げ、花火が始まる前に、親に連れられて帰ってしまった。
そのときの淋しそうな横顔が未だに頭を離れない。
そして一言、彼女が口を開いて呟いた、
だけどそのまま視界は再び暗闇へ。



次に目を開けると目の前にあったのは今にも凄い勢いでぶつかってきそうなクラス名簿、
衝撃がおでこから後頭部へ突き抜けた。
「おはよう森橋君、お目覚めの気分はいかがですか?」
「・・・・・・最悪です」
森橋 空、高校二年生、夏休み前の終業式の日のホームルームの時間の居眠りは少しの痛みを伴った


あの頃は何度も想っていた。
だけど、時は過ぎていつしかまた別の人に恋をしていき、あの夏の思い出がだんだんセピア色に変わっていく。
こうして思い出として消えていき、そして大人になっていくのだろうなあとなんとなく最近分かってきた。
そしてさっきみたいにたまに夢の中で思い出し、そしてすぐに忘れていく、そんな幼い頃の思い出になるんだ。
そんなことを先生の夏休みの過ごし方みたいな話を聞き流しながら考えていた、
そういえばあれは何年前の事だっただろう、
確か小学一年生の時、どこかの神社での夏祭り、そこがどの神社なのか、どのくらいの時期だったのか、
今となってはまったく思い出せそうも無い、きっとあの子も、そんなひと夏の一日の少しの時間の間隣にいた男の子なんて忘れてしまっただろうし、
とりあえず今は・・・・
この隣でニヤニヤしてこっち見ている女子・・・・一ノ瀬 茜の相手をするほうが先だと判断した
「何見てんだよ」
「いや、よく寝てるよなあ森橋君って・・・・って思って」
「明らかに褒めてないだろそれ・・・・」
「いやあ、褒めてるよ?寝る子は育つって言うし、だから背高いんだね」
「・・・・・もういい、相手するの面倒だわ」
「えー、いいじゃん、相手してよー暇なんだよー」
「仮にも授業中だろ今・・・」
さっきから話しながら微妙にこっちのほうを睨んでる担任を横目に見ながら彼女に注意を施す、まあさっきまで寝てた人間が言えたことではないのだが。
彼女はすこしむすっとしながらも前を向いた、
そして担任の話も終わり、夏休み前最後の学校が終わった


隣の席の彼女のことを少し説明する、名前は一ノ瀬 茜(いちのせ あかね)、
茶髪(地毛らしいが)でいまどき珍しく腰近くまでのロングヘヤー、
たまに気分によってポニーテールにしたり三つ編みにしてたりする、たまに眼鏡着用、普段はコンタクトらしいが。
顔はたぶんある程度整ってるから美人な部類ではあると思う、
今年から同じクラスになり、クラスの方針として一年間同じ席になり、隣が彼女だった、
そこから話すようになり、正直に言えば少し恋心も持っている、
だけど、今の関係を崩してまで告白しようとも思わないし、彼女もそれを望んでない気がする。


放課後のバスの停留所でバスを待つ、空は12時だからなのか無駄に日が強く日向にいると少しふらっと来る、
正直空気読んでほしいと毎度思うこの天気、
肝心の体育や晴れて欲しいときに雨が降って、降って欲しいときに限って降らない、
なんというか、人生うまくいかないんだなあと嫌でも思い知る。
そしてふと横を見るとなぜか一ノ瀬茜。
「・・・・・・チャリ通じゃありませんでしたっけ?」
「昨日パンクしたんだもん、だから今日はバスなの」
「さいっすか・・・・」
「なんだよー、私と帰れて嬉しくないの?」
嬉しくないわけじゃないけどさ・・・・まあ絶対言わないけど。
「別に、それよりもこの日差しをどうにかして欲しい」
「私神様とかじゃないから無理だね」
ちなみに今日の一ノ瀬の髪型、三つ編み
この日差しの中だとセーラー服がよりいっそう輝いて見える
・・・・・なに考えているのだろう自分・・・
「あ、そうだ森橋君、夏休みなんか予定ある?」
「今バイトやってないから特に無いけど・・・・どうして?」
「聞いただけ、別に部屋に乗り込むとかそういうことはしないよ?」
「・・・・・てか俺ん家知らないだろお前」
「えっと札幌市北二十四条西4・・・」
「待て、何で知ってんだ」
「いや、こないだメルアドと電話番号赤外線で交換したとき、もろに書いてあったから」
「・・・・あー・・・・うかつだった俺・・・」
「というわけで暇だったら突撃するね、一人かどうかは置いといて」
「やめてくれ」
さすがに冗談だよなあ・・・・・うん。


その後も色々バスの中で会話して、一ノ瀬も降りて帰路についた。
夏休み何しようかなあ・・・・バイトでもするかなあ・・・とか考えながら、妙にさっきの暇だったら突撃するが心に残る。


その後も時が過ぎるのはとても早く、気づけば8月6日。
この間何をしていたといわれたら友達と遊んでいたとしか言えないだろう、当然宿題もやってない。
昼3時頃、少し太陽も傾き始め、なんとなく空の色変わってきたなあとかアパートの一室から空を見上げてそう思った。
親は買い物に出かけているし、今家には一人、宿題やる気力も無い、一般家庭には大体扇風機しかない北海道にはこの気温は酷だ・・・・・、
何かアイスでもかってくるかなあ・・・・・とかそう思って着替えようとした瞬間、家の中にピンポーンとチャイムが鳴り響く。
どうせ集金とかもしくは友人だろうと、とりあえずジーパンと適当にシャツをすぐさま着てドアを開ける、
そこにいたのは茶色く長髪の一ノ瀬茜
とりあえず思わずドアを閉じる、
まて、何であいつが、いや突撃するとか言ってたけどさ・・・・・・まてよ、もしかしたら見間違いかもしれないし・・・、
もう一度そおっと開けてみる、だけど今度はいない・・・
「なんだ・・・・見間違いか・・・」
「ひどくない?いきなり閉じるとか」
そういってドアの裏から現れた一ノ瀬茜、ごめん、幻じゃなかったんだね・・・・って
「・・・・素でびっくりすると声出ないな・・・・」
「ご、ごめん・・・・その反応期待はしたんだけどさ」
「・・・で、家にまで訪ねてきて何の用?」
「家出してきて」
「嘘つけ」
「いや、まあちょっと連れて行って欲しい場所あって」
「別にいいけど・・・・どこよ?」
一ノ瀬は少し目をそらしながらポツリと、だけどはっきりそうつぶやいた。
「月形町」
「・・・・・あの、月形って当別のさらに奥にある・・・・」
「うん、よく分からないけどたぶんそう」
「俺金ないんですけど」
「私も無いもん、だから・・・・自転車乗っけて?」
しばらくその場を沈黙が包む、いや、自転車って、しかもここから月形なんて80km近いし、
まあ電車乗ると往復1万円近いから俺のほうもきついけどさ。
「自分の自転車どうしたんだよ?」
「いや・・・・さすがに家出は言いすぎだけど、親に無断で出てきちゃったから・・・自転車置いてきちゃった・・・」
あはは・・・と少し一ノ瀬が笑う、
この笑顔はいつ見ても反則だと思うのだがどうだろう。
「親に連れて行ってもらうのは無理なの?」
「無理、門限守らないだけでぐちぐち言うし、そんな遠くまで何の用だとか言われるし」
「実際何の用あるの?」
「・・・・今は秘密」
すこしだけ、一ノ瀬が目をそらした気がしたけど、深くは追求しないことにした、そんな権利も無いだろうし。
でも、何となくだけど、いたずらとかドッキリとかじゃなくて、きっと本当に行きたいんだという真剣な思いは何となくだけど伝わってきた。
その手伝いを求められて、出す答えなんてもう決まっていて。
「・・・・わかった、連れて行く・・・・けどこの後すぐ行くの?間違いなく明日になるぞ、着くのは」
一ノ瀬の顔がぱあっと晴れた、今まで見たことない表情、
こっちまで笑顔になってしまう。
「あー、やっぱ結構遠いんだ・・・地図帳からじゃあまり距離とか分からなくて・・・」
「半日ぐらいかかるんじゃないか、わかんないけど」
「そっか・・・・でも、それでも行きたいので、よろしくお願いします」
「あ、いえ、こちらこそ・・・・とりあえず着替えてくる」
ぺこりと頭を下げられ、一瞬かしこまってしまった
こうして、夏休みのたった数日だけど、たぶん一生記憶に残る旅が始まった。


「とりあえずギリギリ荷台は付いているけど・・・・尻痛くても我慢しろよ?」
「よく付いてたね、荷台」
「いやまあ・・・・・すいません、いつか女の子乗っけたいと思って付けてたんです・・・・」
数年前にわざわざホームセンターに買いに行って自分で付けた、後悔はしていない。
現実問題、このときこの場で夢かなったし。
「あーでも分かる、私も彼氏いるわけじゃないのに可愛い水着買ったり、こうやって化粧も万全にしてきたり」
「化粧してるんだ、それで」
「どういう意味よー?、そんなに濃くパンダとかにならない様に上手くやってるって言って欲しいんですけどー?」
「男に取っちゃ化粧してないで美人のほうがうれしいっての」
「むー・・・・・あれ?・・・・それって・・・・」
「いいから行くぞ、ほら早く乗れ」
「・・・うんっ」
正直振り向きたくない、気づかれると恥ずかしくて、たぶん今絶対顔真っ赤だし。
ふと誤魔化しながら空を眺めると、日が沈み始めて、ほんのりと空色から金色へ、なんだか懐かしい感じがした。


そして、後ろに一ノ瀬を乗せ、自転車は出発する、思ったよりも女の子を乗せると重さは感じず、
ちょっとした気恥ずかしさと、少しの優越感と、青春のにおいだけが自分の中に芽生えた。
「んじゃ、しっかり掴まってろよー」
「はーい・・・・んーっと、それは荷台に掴まってればいいの?それともこんな風に・・・」
そう言いながら一ノ瀬が抱きついてくる、予想は出来たけどこの自転車上じゃ反応しきれない。
というかね、当たってる、何とは言わないけど当たってる。
「・・・個人的にはそっちの方がいいけど、バランス取るの難しいぞ、それ」
「んー、確かにねえ・・・意外と前かがみになるからこれ・・・・」
やったことある人なら分かるだろうが、意外と運転してる人と隙間が出来る、だから大体は荷台を掴むことが多い。
それを無理に前の人に抱きつこうとすると、前かがみになってしまい、バランスを取るのが少し難しくなる。
とりあえず一ノ瀬は一旦抱きつくのをやめ、少し悩んだ後
「ちょっと止まって」
そして降りて、横向きに座り直し、その上で片手で荷台を掴み、片手で俺を掴んだ、
横目で見るとしてやったりな感じでニヒヒと笑ってこちらを向いてる、あーもー普通に可愛いからそれ
まあこんなやり取りいつまでも続けていても、最終的に自分が損するだけなので、とりあえずペダルを漕ぎ始める。


そして漕ぎながら
「とりあえず・・・横向きって案外バランス取り辛いからな?俺もあんまりスピード出さないようにするけど、その辺は気をつけろよ?」
「大丈夫大丈夫、バランス感覚はいいから」
それからしばらくは他愛も無い話が続いた、夏休み何していたかとか、宿題の進み具合とか、友達のこととか。
あと、お互いに聞いたことの無かったことを聞いてみたりした、
血液型とか、お互いの第一印象とか、
「とりあえず俺は、髪長!貞子?って思ったな」
「私はその長い前髪で目の部分見えなかったから、暗そうだなあって印象だった」
とりあえずお互いに結構ひどい第一印象だというのはわかった、
その後、隣の席なので話す機会もあり、それがきっかけで仲良くなったからまあいいだろう、
「そういえば最初に何話したんだっけ、私達」
「確か・・・・なんか教科書見せてもらう時にそのまま会話続いた気がする・・・・」
「えーそれだっけ?何かもっと前に会話した気がするんだけど気のせい?」
「間違いなくそれが最初だぞ」
「そっかー・・・・・なんか長く一緒にいる気がするけど、そういえばまだ2年生になってから3ヶ月ぐらいしかたってないもんね・・・・」
「これからもっと時過ぎるの早くなるんだろうなあ・・・・」
「かなあ・・・・なら、今のうちに青春満喫しておかないとね」
自転車に二人乗りしながら、そんなことを二人で呟いた。
空はどんどん金色からオレンジへ、ここからしばらくは俺の好きな時間、
夕焼けの時間。



札幌を早々と後にし、苗穂を通りそのままあいの里へと出る、河川敷を通りながら空を見上げる、見事すぎるほどの夕焼け。
空が夕日に染まっていく様は本当に絵になって、これだけで今青春しているなあって気持ちになってしまう。
同じようなことを一ノ瀬も思っていたらしく、
「空綺麗―・・・・」
「だな・・・・この時間はホント好きだわ俺・・・」
「あ、夕焼け好きなんだ?」
「昔はそこまで好きじゃなかったんだけど、何と言うか、小さい頃の思い出とかちょうど思い出しちゃって切ない時間帯なんだよ、
ほら、よくあるじゃん、小さい頃近所の子供と朝から夕方まで遊んで夕焼け見てさあ帰ろうとか」
「あー、あったねえ、気づくとすぐに日暮れてるんだよね、それで寂しいけどさよならってね」
あの頃と何も変わらない空、小さい頃も、初恋のときもいつもこの空。
「さて・・・そろそろスピードアップしないと」
「でも今日中に着かないんでしょ?」
「そうだけど・・・せめて当別まで行かないと夜どうする気よ?宿無いんだぞ?」
「・・あー、・・・・夜通しで走るとか」
「死ぬから俺、何時間漕がせる気だよ・・・」
「んじゃ、野宿だね」
物凄くいい笑顔で言われた、
それそんな笑顔でしかも女の子が言う言葉じゃないからな、一ノ瀬よ。
「さすがに女の子を野宿させるのはどうかと思うんだ・・・でも金無い・・・」
「大丈夫、言い出したの私だし、野宿でもぜんぜん平気」
「まあ・・・・出来るだけ漕ぐように頑張りますけどね・・・」
「時間はあるから無理はしないでね?」
「わかってる」
月形まで行くのが一番無理してるというのは言わない事にした、んなこと一ノ瀬も分かっているだろうし。
だけど、ここまで行きたいと言い張るんだから、それを連れて行くのが今の俺の役目、
普段なら断っているだろうけど、今回は何故だろう、ただ一緒に居たいだけなのかもしれないし、恋心によってなのかもしれない、
自分でもここまで駆り立てるものが何なのか分からなかった、
まあでも、今はこの夕日バックに、ただ進むだけ、
空が夕日に染まりきる前に。


「ねえ、ご飯食べよー」
「・・・・こんな田舎道走ってる時に言わないでください」
日もすっかり暮れ、自転車のライトをつけたので少しペダルの重くなった自転車、
普通に取り外し出来るタイプのライトつけておけばよかったと今更ながら後悔しながら進む。
「えー、というか当別までどれくらいなの?」
「あと15kmぐらいじゃない?」
「遠いね・・・コンビ二って当別行かないと無い?」
「たぶん無いんじゃない?この家の立ってなさっぷり見ると・・・・」
「そっか・・・・来る前になんか買っておけばよかった・・・・」
「・・・・・ったく・・・・ほら食え」
カバンの中からさっき着替えてくるときに家の冷蔵庫から持ってきたおにぎりを一個差し出す、一応二個持ってきた。
「あ、ありがとう、気が利くというか・・・・・・・うん、気が利くねって言葉が一番あってた」
「まあ、普段の一ノ瀬見てたらこういうの忘れてるだろうなあ・・・って感じはしたからな」
「うん、えらいえらい、んじゃ、いただきまーす」
「まともな夕食は後でコンビニ着いたらな」
しばらく沈黙の中進んでいく、しかし、その静粛は突然途絶えた。
「あぁー!!」
「どした!?」
「・・・・おにぎり落とした・・・半分しか食べてないのにぃ・・・」
声から察するに本気で落ち込んでる様子だった、そりゃあこんな不安定な状況で片手で荷台掴みながら片手でおにぎり食べたら落とすよなあ・・・・。
そこまで考えれなかった俺も俺だが・・・・、
しかたないので、
「・・・俺の分やるから、落ち込むな・・・」
「・・・ごめん、ホントありがと・・・・」
「次は落とすなよ?」
なんだかお互いに恥ずかしくなって、再び沈黙していると、後ろから、
「森橋君、ちょっと口あけて」
「あ?もがっ」
何で?と答える前に口に何かを突っ込まれる、一瞬自転車がふらつく、かんでみると何なのかはすぐ分かった。
とりあえず、それをよく噛んで飲み込み、
「・・・俺の食っていいって言ったじゃん・・」
「いや、一口は食べたけど、さすがに私が二個食うのは悪いなあと思って・・・・どう?おいしい?」
「そりゃあまあ・・・って、自分作ったものじゃないのにおいしいって言われてうれしいか?」
「いいのいいの、細かいことは気にしなーい」
まあ本人がいいって言ってるならいいか、喜んでるほうがこっちもうれしいし、
・・・・・さっきから心の中で思ってること、悟られたら本気で恥ずかしいんだが・・・・
まあこれが恋愛の醍醐味でもある、正直今となってはこの状況すごい楽しんでる。


そして当別に着く、時間は9時、あと30kmぐらいで月形なのだが、コンビニに寄り夕食を買い、近くの公園で食べることにする。
さすがに都会ではないので街灯も疎らにしかなく、公園にいても明るいわけではなかった。とりあえずベンチに座る。
「さすがにそんなに明るくないね・・・・携帯見たら9時だし」
「んでどうするの?このまま行けば夜中には月形着くけど・・・・」
「んー・・・・用事あるの明日の昼以降だからねえ・・・・」
「というか何の用事かそろそろ教えてもらえないか?」
そういうと一ノ瀬は、んーっと少し悩んで、
「祭りに行きたいの、月形でやってる」
「祭り?」
「うん、お祭り」
「・・・・別に近くでやってる祭りに行けばいいんじゃ・・・」
「それじゃあ駄目なの。このお祭りじゃないと・・・・」
その眼差しはとても強くて。
「・・・わかった、でも着くの朝方になるからどうすればいいかだよなあ・・・・」
「今日はどっかで野宿かなあ・・・・でもこのご時勢、外は危ないよね・・・・」
「少し仮眠取らせてくれれば起きてられるけど・・・さすがに一夜泊まると着く前に補導されそうだし・・・」
「それは避けたいね・・・・」
「とりあえず2時間寝れば夜の間は起きてられるから・・・寝ていいか?」
「うん、じゃあ交代で2時間ずつ寝ようか、片方は起きて見張ってるってことで」
というわけで・・・とか一ノ瀬は少しつぶやき
自分の膝をぽんぽんと叩いて笑顔で、
「膝枕してあげる」
「・・・・んなことやってて恥ずかしくないかお前・・・」
「恥ずかしいに決まってるでしょ・・・ここまで連れて来てくれたお礼、こういうことしか出来ないから、ね?」
「・・・んじゃ、お言葉に甘えまして・・・」
・・・・というか、妙なぬくもりとやわらかさで、寝るに寝れない、落ち着かない。
というかこの状況で理性保てというほうが無理な気がする、しかし理性崩壊するときっとここで青春とおさらばになってしまう、
しかし、それでもそのうち段々と瞼は重くなり、意識は堕ちた。



目の前に広がっていたのは、あの風景、
祭囃子が遠く聞こえて、そこには彼女の下駄のカタカタという走り回る音が存在して、
笑顔を覚えてる、浴衣の柄も覚えてる、後はぼやけたまま、夕焼けの風景、森の中、神社の石段、風の音、
そしてまたあの別れの場面、しかし、いつもと違うのは、あの続き、
小さく声が聞こえる
『・・か・・・ぜった・・・』
すべてを聞き取れるわけじゃないが、かすかにこう聞こえた
そして今まで思い出せなかったある場面を思い出した、何を喋ったかは思い出せないが、夕焼け空を見て、二人で話す姿、
神社のお社の小さな階段に二人で座って、手を繋いで、そうだ、ここで初恋が始まったんだ、
そして立ち上がって彼女が笑顔で何かを言っている、何かとても大事なことを言っていたはず・・・・もう少しで思い出せそうなところで、目が覚めた。



「あ、ホントに時間ちょうどで起きたね」
「・・・・んあ・・・はよ・・・・」
なぜだか妙なデジャブ感、まあそれはおいといて、
なんだかんだで寝れたのだなと・・・このある意味男にとっては夢の状況で、
「いやあ、とりあえず頭なでてたら眠ってくれたから安心したよー」
「・・・・・・・・ごめん、されてる自分想像してすごい恥ずかしくなったんだけど」
「私は楽しかったけどねえ、何かお母さんになった気分で」
子供かよ俺・・・と少し思いながらも上半身を起き上がらせる、首や腰の骨を鳴らしてふうっと一息つく、
時計を見ると11時、確かにちょうど2時間、
再び一ノ瀬の顔を見ると、やっぱり眠そう、
「んじゃ、交代、見張っててやるから寝なさい」
「うん、そうさせてもらうー2時間後に起こしてねー」
そういうと肩に頭を乗せ、すぐに眠り始めた、たぶん二時間話し相手もいなくて、相当眠気と戦ってただろう、俺でさえ眠かったんだし。
とりあえず、2時間とは言わずもう少しだけ寝せてあげよう、そう思った。
・・・寝顔を覗いてみる、すやすやと少しの笑みを浮かべて、幸せそうな寝顔・・・・そのまましばらくずっと見てしまう、
・・・・きっとどこに惚れたかと聞かれたら、理由の一つにこの笑顔がある、こっちも幸せな気分になるその笑顔、いつも一ノ瀬は笑っている、
そんな彼女の隣に出来ればずっと居たいと、そう願った。
そしてぼーっと星を眺めたり、携帯を弄ったりしながらすでに2時間半、一時を過ぎた頃、
少しうとうとしていた瞳に、遠くにほのかにひかる懐中電灯の光が映った、
最初なんだか分からなかったが、少し聞こえた車輪の音で、あれがおまわりさんだという事に気付けた、
我ながらこの朦朧とした意識でよく気付けたと思った。
とにかくここに居ると間違いなく職務質問が来るので、しょうがないが一ノ瀬を起こす
「一ノ瀬起きて、やばい警察来た」
「んにゃ・・・・え?」
とりあえず、一ノ瀬の手を引っ張って物陰に逃げ込む、
最初ボーっとして何が起きてるかわからなかった彼女も徐々に意識が覚醒してきたようで、
「今何時?」
「一時半、さすがにこの時間に見つかるとやばいだろ・・・」
「・・・てか2時間過ぎてるのね・・・起こしてよー」
「あまりに気持ちよさそうに寝てるから出来るだけ長時間寝せようと思って・・・・」
「その気持ちはうれしいけど・・・・お巡りさん公園入ってきた?」
「どうだ・・・入り口でキョロキョロしてる・・・あ、自転車置きっぱなし・・・・」
「馬鹿ー、やばいじゃん・・・・」
「ごめん、あせってたもんで・・・・」
とりあえず騒いでもどうにもならないので、身を潜めてお巡りさんの様子を見る。
果たしてばれてしまうのか・・・・
しかし、お巡りさんは、自転車を一回チラッと見た後、そのまま一通り懐中電灯で光を当てて、誰も居ないのを確認して公園を後にした。
そのまま2分ぐらい足ってから、物陰から顔を出す、何とか助かった。
「ふう、何とか助かったみたいだな・・・・」
そういって一ノ瀬のほうを見てみると、なんだかぼーっとこっちを見つめている、そこでやっと気付いた、さっきから手繋ぎっぱなしだ。
「あ、ご、ごめん・・・繋ぎっぱなしだった・・・」
「・・・・・えっと・・・・・・・・うん、大丈夫」
とりあえず手を離す、一ノ瀬は自分の手をじーっと見つめている、そしてふっと微笑み、
「よし、じゃあ出発しよっか」
「まだ1時だぞ?」
「もう私は十分睡眠とったけど・・・・森橋君まだ寝たい?」
「いやまあ・・・・大丈夫だけど・・・」
「またお巡りさん着ちゃうかもしれないし、出発しちゃおっか」
「うん・・・夕方以上になんか積極的だな・・・」
「なんか寝起きってテンション高くなるの私、じゃ行こうー」
そんなかんじでとりあえず出発することにした、ふと空を見上げると無数の星空、そういえばもう8月7日か・・・北海道だから今日が七夕か・・・、
近所では蝋燭出せーとか確か北海道独自の風習があり、昔はよく友達と近所を歩き回ってお菓子を貰ってたりした
、今でもたまに家に小学生がお菓子貰いに来たりするが、昔に比べて減ってしまったのだろうか・・・
とりあえず一ノ瀬に後で聞いてみよう、そう思った。

夜は気付かぬうちに過ぎていった。



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