忘却されし者

人の闇、人の光
その全てを浴びて歩いた
その全てを見守り歩いた

行き着いた先は幸せ?不幸?


それはキヲクだけが知っていた
それはキヲクだけが語っていた


神々の世界と人々の世界
メビウスのように連なって
未来永幸にに抜け出せない運命の世界
宿命と自由の世界






#asgard∞midgard~第一章:Stage of the ground~#






「うぅ・・・暑・・・・」

物凄い猛暑なこの7月6日、扇風機をぐるぐる回して窓全快でだらーっと過ごしていた彼は、カザネ・サンセット、兎に角不運だけどめげずに生きている16歳

ここの家は一応、姉と二人暮らし、こないだまで、友達の家に泊まってるとか言って、1ヶ月に1回しか帰ってこなかったこともあったが、最近は結構頻繁に帰ってくる、ほら

「ただいまー、ごはん出来てるー?」
「おかえりー、帰ってくるって一言も言ってなかったからまだねえよ」
「じゃあ早く作ってー」
「はいはい・・・」


なぜだか、うちでは俺が料理当番、辛うじて洗濯だけはやってくれるんだが、他はほぼ俺、理不尽だが逆らえない
性格はあんなんだが、強さだけは冗談抜きで強い
まあ、それでも、優しいときは優しく、いい姉なのだが








「ふぅー、ごちそうさま、さて冷やして置いた日本酒飲むかなあ・・・」
「もう飲むの?まだ夕方なのに」
「馬鹿ね、お酒に時間は関係ないの」

そう言いながら、冷蔵庫に向かい、日本酒を取り出しコップに何故か2杯注ぎ、こたつへ持ってきた

「・・・飲めと?」
「うん」
「・・まだ未成年なんだけど・・・・俺」
「気にしない気にしない、あたしだって22だし」
「二十歳より上じゃん」

まあ仕方ないので飲む、てか普段は一人で飲んでることが多いから結構珍しい
飲みながら交わす会話は普段と同じようなこと、これといって珍しい話でもない、何処にでもある話

「そういえばさあ姉ちゃん」
「ん?どうしたの?」
「こないだも聞いたけど・・・・なんで姉ちゃんが叩羅持ってるの?」
叩羅・・・・400年前の伝説の魔術師、スカイ・ウインレイが使ってたとされる2刀のひとつ、なぜか姉が所有
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何か面白いテレビやってないかなあ・・・」
「話逸らすな」
「・・・あたしの初恋の人」
「・・・へ?」
「だからあ、あたしの初恋の人がスカイ・ウインレイなの」
「・・・いや、そこは分かったけど、ウインレイさんの二刀のうち一本持っている理由が分からない・・・」
「詳しく話すと本気で重大告白になるよ?例えばカザネが実はこんにゃくだったぐらいの」
「待て、こんにゃくは無いだろ、てかなんだよその例え・・・」
「それぐらい衝撃度強いって事」

そういいながら既に三杯目に突入していた
流石、好きな物がヨーグルトとお酒

「初恋なあ・・・てかどう考えても憧れレベルでしょ?」
「まあ・・・憧れだったんだろうねえ・・・・でも実際に目の前にいたら惚れるよ?」

6時のチャイムが鳴って、鳩の人形が飛び出してくる
その音がこだまするぐらい、一瞬時が止まったような感覚だった

「・・・・・・・姉ちゃん、酔ってる?」
「失礼な、こんなんで酔うわけ無いでしょうが」

まあ、普段の姉見てるとこんな量じゃ酔わないだろうけど
だけど

「400年前って・・・何世代前だよ」
「あたしに聞かないでよ、計算面倒だから」
「まあ世代とかどうでも良いけどさあ・・」
「ほら、どんどん飲んで」

どんどん、人のコップに日本酒を注いでいき

「これ・・・未成年飲んで良い量じゃないって・・・」
「大丈夫よ、死にやしないでしょ、お酒ぐらいで」
「いや、結構死ぬよ?急性アルコール中毒で」
「あんたなんかどうせ、なる前に酔って寝るってば」
「いや、寝るまで酔うのはないと思うんだ、現実に」
「いや、意外に酔うのよ?結構」

そして、姉の忠告通り、3時間後には記憶も意識もなくなっていた
気付けば次の日の朝で、いつも通り幼馴染みのセピアに侵入されて起こされたのはもう少し後の話









「さて・・・・ようやく寝たね、カザネ」

弟を引きづりながら部屋の布団に入れて、寝かせ、自分の部屋へと移動したカザネの姉・・・・・・東雲・サンセットは窓の外に見える、月を眺めながら、色々と思い返していた

「・・・・いつか喋らないといけないんだろうけどね・・・あの事も」

さっきまでとはうって変わった雰囲気で、弟の部屋の方に視線を移した
色々、苛めてみたり、喧嘩してみたりするのだが
それでも、世界で一番、たった一人の家族
簡単な言葉で言うと

愛してる

恋愛感情とかじゃなくて、家族愛、親愛
大好き、ホントに大好き
それじゃなきゃ、ここまで、探してこなかった
時元を越えてまで探しに来るわけがなかった

そして、弟を見てると思い出すというか、妙にダブるというか
数ヶ月間、一緒に旅してた、いつの間にか大好きだった、あいつを思い出す

「元気かな・・・ロスト・・・」

鮮明に思い出される、あの頃の思い出
あたしだけが知っている、あたしだけが覚えている400年前の物語

と、すこし雪が入る窓の方から、黒い影

「おい・・どうしたよぉ、そんな過去に呑み込まれてるような顔してよ」
「・・・・朧夜・・・」

こいつの声、姿、すべてがあの瞬間のフラッシュバックへのスイッチ
もう二度と思い出したくない





『・・・ねえ・・・返してよ!!カザネを何処に連れて行く気なの!?』

『お父さんも・・・お母さんも・・・・返してよ・・・』








「忘れるもんか・・・それに・・・すべて・・・すべて、あなたのせいで・・・・・あなたのせいで・・・」

心から憎んでる
殺したいほど憎んでる
この世で、一番、大嫌い


「・・・・・今日は挨拶だけ、お互い、顔は見ててもこうして二人きりになることなかったからなぁ?」
「っちょっ!・・・待て・・・!」

必死で斬りかかった太刀筋もかわされ
人をあざ笑ってるかのような笑みをこちらに向けて

「んじゃ、その刻がきたらな」

そういいのこし、影は去っていった














緊張の糸が切れたように、膝から床へ崩れ落ちる
いつの間にか荒くなっていた呼吸
深呼吸して、息を整え

「・・・朧夜・センチュリー・・いや・・朧夜・・・アルベリック・・・」

もう一度、月を見つめた、窓から入ってくる冷気が冷たかった



そういえば、あの夜も、こんな月の夜でした

忘却されし物語を覚えてる彼女が今、そっと絵本を開いていく



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