こんな良い天気なのに

こんなに幸せなのに

さらに求めるのは

駄目でしょうか、神様

そう、空を見上げていた








「ねえ、ここから一番近い街って、どれぐらいかかるの?」
「歩いたら丸二日ぐらい」
「・・・・・うわあ・・・遠・・・」
「ここ山の中だぞ、下山するのも時間かかるんだし」

そこで、東雲がぴたっと、その場に立ち止まる
そして少し考え込んだ後

「・・・・・あれ、何で山の中に居たんだろ・・・」
「・・・倒れてる前の最後の記憶どこだよ・・」
「シールラ村」
「思いっきり反対側の下山したとこにある村じゃねえか・・」
「多分酔って山登ったんだろうなあ・・・」
「酔って山登るってのが理解できない・・」
「私も」
「・・・・・・」


多分、一生こいつの思考回路は理解出来なさそうだと今の瞬間悟った





そうして、しばらく歩いているうちに、外は暮れて行き

「あーやば、暗くなってきた・・・」
「あと少し歩けば村があったと思ったが・・」
「村ぁ?街じゃなくて?」
「街なんてまだまだ先に決まってるだろ・・」
「・・・だよねえ・・」

あーだこーだ文句言いながらも歩く
流石に野宿になるのだけは避けたい

すでに、空は藍色に染まり始めて
少し肌寒くなってきて、風も少しだけ強くなる

「あ、村見えた!」
「おー、やっと着いた・・・」

ぽつんと都会の流れからは隔離されたような雰囲気の村
だけど風のせせらぎか酷く心地よい





とりあえず、宿を見つけて、そこで一泊することにした、が
面倒なので東雲に予約を任せると

「とれたよー、一部屋」
「・・・・ちょいまて、二部屋余ってなかったのか」
「余ってたけどお金の無駄じゃん?」

いじめだ・・・絶対いじめだ・・・

「お前・・・分かってやってるだろ・・」
「まあまあ、ベット二つあるらしいし、誰も夜這いする気はないからさ」
「夜這いとか言うな馬鹿」
「馬鹿じゃないもん、わざとだもん」
「なおさら悪いわ!」

・・・最近、妙にツッコミ体質になっている気がするのは気のせいだろうか・・・まあそれもこれもこの女のせいだとは思うのだが
・・・・昔に比べると、会話できる分、成長はしたのかもしれないが

とりあえず、何言っても始まらない気がしたので、その話は止めることにした

納得行かないが

「あ、そうだ、飲みに行かない?ここの村、美味しいお酒あるってさっき聞いたし」
「断る・・・って引っ張るな!」
「いいじゃん、金は私出すし」
「そう言う問題じゃねえ!」

そうして、無理矢理連れて行かれた先は少し風情がある酒場だった
やっぱりアルコール臭は結構するのだが







・・・酒あんまり強くないんだよな俺・・・

チューハイの上に浮かんでいる氷を傾けたりしながら、辺りを見渡す
酔いつぶれている奴、何か踊ってる奴、笑ってる奴、泣いてる奴
こう見ると色々な人間が居て、この騒がしさが彼女は好きなのだろう

「ふあー、ロストも飲め飲めー」
「・・酒臭い」
「気のせいだってー、てか美味しいよこれ」
「そんな強くねえんだよ、酒は」
「慣れだよ、慣れ」
「そのうち急性アルコール中毒なるぞ」
「大丈夫、8分目でやめてますから、こないだ10分目まで行ったけどー」
「だから遭難したんだろ」
「遭難してませーん」

そして彼女は、むすーっとむくれて、再び酒を飲み始める

しかし、ふと何か思いついたのか、手が止まって

「そういえばこの村セイレーンが元々住んでいた村なんだってね」
「んあ、らしいな」

セイレーン・・・昔は人間と同じぐらい住んでいた
見た目は殆ど人間と変わらず、唯一違うのは羽が生えていることぐらい
その歌声は聴く者を癒したと言われているが
最近はなにやら、セイレーンの歌声が災いを呼ぶと言われており
徐々にセイレーンが殺されているとも聞く、確か今の王様になってから

「でも魔力も持ってたって話だよね、最近は普通の人でもちらほら使える人見るけどさ」
「そう言う噂は聞くけどなあ・・・・」
「そういえば、ソラアイっていうセイレーンの話聞いたことある?」
「あー、何か聞いたことあるな・・・たしか・・」


硝子の目をした女のセイレーンが居ました
彼女は、いつも河原のいつもの場所で謳を歌ってました
いつの日もいつの日も謳ってました
彼女はいつの日も明るく過ごしていました
生きてる証拠を見せるかのようにずっとずっと謳ってました
しかし、いつの日か、彼女は星になりました
しかし彼女の謳は皆の心に刻まれました


「何でいつも謳ってたんだろうねえ、彼女は・・・」
「さあ・・・」

いつも謳う意味はあるのか、誰に謳っていたのか
その答えを知る人は何処にも居ないのだろう

「てかホントに大丈夫か・・?そんなに飲んで・・・」
「んー、酔いは醒めてきたんだけど・・・足下は凄いフラフラっぽい・・」
「それ全然酔ってるから、醒めてないから」
「んにゃあ・・・宿連れてって・・」
「・・・・俺まだ同年代の女に触れるほどは克服してねえぞ、女嫌い」
「私関係ないもーん」
「いいから歩け、転けそうになったら服掴むぐらいはするから」
「むう・・・・まあそれでいいや」



取り敢えず、お金を払った後、店を後にする
というか、今日一日、何かしらんが相当疲れた
今までの倍は軽く会話していただろう
これがこの先2〜3日続くのかと思うと溜息の一つは出る

夜はお構いなしに更けていく

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