目を閉じれば蘇る物語
光が生まれて
闇に包まれ
道が続いて
そこに、あなたが居て








400年前、エヴリトル地方
比較的緩やかな山道が続くこのあたり
朝の日差しが眩しく差し込む
そこを通りかかった男性がいた
しかし、目の前に・・・・一人倒れてる女性



「・・・・・・・大丈夫ですか?」

偶然通りかかった男性がとりあえず声をかける
が、返事がない
見た感じ、20歳前後で、手には布の鞘に収まった刀を持っていて
横には服などが入っているのであろう、袋があった

男性は辺りをキョロキョロ見回し、誰もいないことを確認すると
そのままその女性を連れ出し・・・・もとい誘拐した









「ん・・・・・う・・・あー・・・よく寝たー・・・あれ?」

目を覚まし、目を擦って、辺りを見渡すと、見慣れない場所
どっかの洞窟の中のようだ
外は少し暮れかけている

確か昨日は酒場でお酒沢山飲んで・・・・覚えてないや
とりあえず、多分道ばたに倒れていたんだろうけど
間違ってもこんな洞窟にはいない筈・・

「目覚ましたか・・・」

そこに、とりあえず知り合いではないはずの男性が立っていた
その後ろには同じぐらいの歳の子や、15歳前後の男の子女の子など、10人ぐらいいるだろうか

「とりあえず・・・」

目の前の男が持っていたライフルの銃口を近づけ

「金目のものを出せ」

・・・誘拐?
まあでも・・・


次の瞬間、ライフルの銃口と柄の部分が地面に落ちていた

「!?」
「脅し程度だとこうやって斬られたら終わりだから気を付けた方が良いよ?」
「今どうやって・・・・」
「ん?ふつうに刀でザシュって」

・・・全く見えなかった・・・

これでも動体視力は良い方だと思ってはいるんだが
明らかにこれのスピードは次元が違った

「・・・・もういいや、どうせ金目のものなんて刀以外無いだろ?」
「え?終わり?」
「これ以上やってもどうせ勝ち目無えし」
「てか金目の物だけ奪ってどっか放置しとけばよかったのに」
「・・・・お前の身内とかに身代金要求しようと思ったんだよ・・・」
「あ、なるほど」

そしてその男は洞窟(多分アジトなんだと思う)の奥のほうへ歩き出し

「もう帰っていいぞ、あとは好きにしな」

姿が漆黒へと消えていく





「・・・らしいですけど・・」

とりあえず取り残された10人ぐらいのうちの黒い髪の女の子が口を開いた
さっきは張り詰めた空気だったのが、リーダー(多分)が居なくなって急に空気が変わる、殺意も狂気も無い空気

「うーん・・・・てか、ここどこかも分からないから出ようが無いしなあ・・・」
「えっと・・エヴリトル地方、山奥の・・・」
「うん、それはなんとなく分かってるんだけど・・・」

なーんか帰るのも面倒だなあ・・・
基本自由奔放なので、宿代払うよりはここに居たほうが経済的にも楽だったりする

そんなことを考えてると、一気に

「ちょい、ねーちゃん、刀持ってるけどあんた剣士かい?」
「ねーねー、その髪綺麗ー」
「・・・・・・・」
「あー行っちゃったよ兄ちゃん・・」
「眠い・・・寝る・・」
「和服美人かあ・・・」
「てか少し酒臭いんですけど・・・」
「長いねー髪の毛」
「というかお前ら、一気にしゃべるな!」



「・・・・えーっと・・・」



気がつけば全員が喋りかけて来て

「ほら、この人困惑しちゃったから、全員まず整列!」

この10人の中でリーダー格なのか、赤い髪の男の子が全員をまとめる
「えっと一人ひとりを簡単に説明しますと・・・
自信なさげなのがジュリ
まずおばちゃん言葉なのがトート、一応男
甘えんぼっぽいのがレイカ
無口なのがギギス
ロストさん大好きな弱虫がカルカ
寝てるのがスプリ
明らかにさっきからあなたのことをじっと見てるのがシェン
ちょっと引いてるっぽいのがライツ
あなたの髪の毛触ってるのがエルン
そして俺がロットです」

「・・・・・・あ、えーっと・・・」

頭がオーバーヒート寸前状態になった
正直暗記事は嫌い

「・・無理して覚えなくていいです」
「あ、ごめんね・・・んーと・・」
「ロットです」
「そうそう、それ」


しばらく、みんなと話して

「居るにしても暇だねえ・・・」
「ねーねー、お姉ちゃん強いの?」
「さっきの見たろ、強いに決まってるよ、この人」
「でも戦闘慣れは俺達のほうがしてるんじゃない?盗むときは必死だし」
「・・・・・知らん・・・」

一度話題に火がつくとマシンガンのように言葉が飛んでくるちょっと微笑ましかった

「んじゃ・・・ちょっと・・戦ってみる?」











「あー暇だ・・・」

一方、自室に戻った男は椅子に座りながらボーっと天井を眺めていた

「てか同年代の女苦手なんだよ・・・俺」

実際、さっさと去ったのは恥ずかしかったってのもあった
というか、あの女はもう居なくなっただろうか

「・・・・見に行くか」

ちょっとした興味本意、まあ好き好んでこんなところに留まる物好きもいないだろう・・・・







・・・・・いたわ、物好き



「強・・・・」
「次俺ー」
「はいはい、あんまり勢いだけじゃ駄目だよ?」
「とりゃー・・・って・・うわっ痛ぇ!」


「・・・・・何やってんだお前ら・・・」

「あ、ロスト兄ちゃん!この人凄い強いよ!」
「・・いや、さっきので分かってるけど・・・てかロット、お前がまとめなくてどうする」
「いやあ、だって楽しいし」
「黙れ、とりあえず全員そこに正座」
「・・そこまですること無いんじゃない?おにーちゃん?」
「お前もだ、女」
「・・・はぁい」

文句垂れながらも全員が正座をし
説教が始まる

「とりあえず、何でお前はまだここにいるんだ、女」
「宿代勿体無いからここに泊まろうかと」
「・・・・ここは宿じゃねえよ・・・」
「いいじゃん、てか攫ったのそっちじゃん」
「道端で野垂れ死んでたのをわざわざ助けてもらったと思えよ」
「えー」
「えーじゃねえ」
「いいじゃん、減るもんじゃないしさー」
「減らなきゃいいってもんじゃないだろうが」

あーだこーだ言い争ってると
ロットが

「ねーいいんじゃない?泊めてあげても」
「却下」
「てか実際、ほんとは同年代の女の人いると緊張するから嫌なんでしょ?」
「・・・・そ、そんなこと・・」
「あ、図星」
「へえ・・・女性苦手なんだ?」
「・・ち、ちが・・・」

ここぞとばかりに一気に寄りそってみる
明らかにビクビクしている

「よるなあ!!」
「こわくないんでしょお?」
「・・・・すいません、俺が悪かったです・・・」

こうして、宿を確保した








そして、その夜
子供達が寝静まったあと、こっそりと、奥の部屋へいく

「・・・さっきまで寝てたから寝れないしなあ・・・」

それと、酒無いから酔って寝るということも出来ない

泊めて貰ったのは宿代もあったが、旅していると結構人恋しくなるもので、ちょっと興味が沸いたのが実際の理由だった


部屋の前に着いて、取りあえずノックをしてみる
が、返事がない

「おじゃましまーす・・・って、あれ?」

ドアを開けて、部屋にはいるが、そこに人影はなかった

「あれ?何処行ったんだろ・・・・ん?」

見ると、ベットの横に上へ続くはしごがあった
とりあえず、暇なので登ってみることにする







「・・・寝れねえ・・・・」

満天のプラネタリウムのような星空を見上げながら男はそう嘆く
いつもなら遠慮無く寝れるのに、微妙にドキドキしてしまい、眠気が全くない、しかたないので、大きな空が存分に独り占め出来る、洞窟の外のこの場所に来ている

ここから空を見てると、今すぐにでもこの場所から旅立ちたいような思いに駆られる、昔出ていったあいつのように

「・・・まあ無理だよなあ・・・あいつらいるし」

今はあいつらの世話で精一杯
元々、あいつらは、親がいなかったり、捨てられたりした家無き子で、それを拾って、世話をしているわけで

何故か、妙に星が眩しく感じた



と、何かが近づいてくる足音が聞こえる
その方向に向けて、銃を構える

「・・・私だってば」
「・・お前か、というか寝てたんじゃなかったのか」

そう言いながらも微妙に距離感を取りつつ逃げる

「・・・・何もしないって」
「・・・いや、つい条件反射で・・」

溜め息混じりに言いながら取りあえずとなりに座った、まだ微妙に彼には距離取られるけど

「綺麗だねえ、空」
「晴れてるから一層綺麗に見えるしな・・・」
見上げた空には無数の空の涙
星を見るのは好きだ、空の全てを独り占めしている気分になる

「・・・そういえばさ、名前聞いてなかったけど、なんて言うの?」
「・・・ロスト・サンセット、お前は?」
「東雲・胡蝶蘭、東雲でいいよー」
「漢字名か・・・・珍しいな」
「そう?たまにいると思うけど・・・・」
「そりゃあたまには見かけるけどさ」

しばらく無言になる
星は変わらず輝いて


と、ふと彼女が立ち上がり

「ねえ、なーんか、夜空見てるとさ、どかーんと花火したいと思わない?」
「花火?」
「うん、ほら、子供達も呼んでさ、みんなで」
「花火なんてここにあるわけねえだろ」
「無いのかあ・・・買ってくればいいじゃん」
「んな勿体無いことに金使えないっての・・・・それにここ山の中だぞ、街まで行くのに大分かかるし」
「そうなんだよね・・・まあ仕方ないか・・・」
「・・・・・・・でも花火ねえ・・・」

夜空に向かって、彼がそう小さく呟いた


と、ふと、あることに気づく

「・・・てか、普通に会話出来るようになってるじゃん、ロスト」
「あ・・・・てかいきなり呼び捨てかよ」
「だって君とかさんとか付けても気持ち悪いだけでしょ、同年代相手に」
「まあそうだけど・・・」

初対面相手だぞ?と言いかけたが、やっぱやめた









何を喋ろうか・・・・


とりあえず、ロストのほうへワザと寄ってみる
まあ予想通りそそくさと離れられた、微妙に傷つく
それでも、何か、ずっと隣にいる気がした、気付けば空っぽな場所を埋めていた


「そういえば、何であそこに倒れてたんだお前は」
「・・・あー、あれはただ単に二日酔いと寝不足」
「死体かと思ったぞ、一瞬」
「死ねないよー、まだ若いし、見つけてないし」
「見つける?」
「うん、とっても大切なもの、それを探すのに旅してるわけで」
「へえ・・・・何だよ大切なものって」
「秘密」
「あ、そう」

一瞬だけ、彼女が寂しそうな顔になったのは気のせいだろうか

「さて・・・寝ようかなあ・・・夜が明ける前に」
「まあ少し明るくなってきたし・・」

東の方が仄かに輝く、光が夜空を駆けめぐるように流れていく
風が吹き抜けていって、服が、髪が、さらさらなびく


寒さが、今日は何故か心地よく思えたのは気のせいだろうか







そして次の日・・・昼にさしかかろうとした頃

「それじゃ、お世話になりましたー」
「ねー、もう一日ぐらい泊まっていってもいいのに・・・」
「流石に何日も居座れないよ・・ごめんね?」


ふと見渡して気付いたこと

「あれ?ロストは?」
「あー、兄ちゃんは寝てるんじゃない?」
「そっか・・・それじゃあね、また機会あったら遊びに来るよ」
「うん、待ってるねー」

そうして、別れ告げて、この場所を後にした
朝の風は、少し冷たかった





そして、5分ぐらい後

「おはよ」
「あー、ロスト兄ちゃん、もう東雲お姉ちゃん行っちゃったよ?」
「うるせ、関係ない」
「ふーん・・・ってどっか行くの?外出用の服だけど」
「・・・えーと、ちょっと留守にするから留守中頼むぞ、ロット」
「あ、うん、わかった」
「普段殆どここを留守にしないから心配なんだが・・・大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫、兄ちゃん思ってるよりもみんなしっかりしてるよ」
「そうか?ならいいんだが・・・・じゃ、行ってくる」
「いってらっしゃーい」


そして、みんな集合して

「多分、東雲お姉ちゃんの後追っていったよね・・」
「8割そうだろうな」
「まあいいんじゃない?たまにはさ」
「しっかりしてよね、ロット」
「分かってるっての」

子供は親の見えないところで成長している
そんなもんだ








「・・・やばい、微妙に迷った・・・」

一方、こちらは下山中に迷い気味の東雲
周りは木々だらけ、全部同じに見える

なんだかんだで1時間ぐらい彷徨ってる、出口が全く見えない

「あー、ロストに道聞いとけば良かった・・・」

その場に座り込む、見上げると木漏れ日が眩しかった




「・・ったく、どれだけ俺に迷惑掛ければ良いんだお前は」

後ろから聞こえた声、振り返るとやっぱり

「ロスト・・・寝てたんじゃないの?」
「花火買いに行く」
「へ?」
「だから花火買いに行く、それだけ」

微妙に恥ずかしそうに話す姿が何か可愛らしくて
ふっと微笑みを零した

「てかさあ、どっち行けば出れるの?これ」
「・・・真逆なんだが」
「え、嘘!?」
「連れって行ってやるから取り敢えず付いてこい」
「はーい」


思えば、これがしばらく続く、二人の旅のはじまりだった
空は真っ青で、雲一つない晴天だった



back home next