あの頃を思い出すと

胸が苦しくなって

涙が溢れてきて

風の音色が、今は悲しく

頭の中で響く









酒場を後にして、何とか宿屋までたどり着いた
酒場からここまで5分のところを1時間近くかかったが、ここでは中略しておく、説明もしたくない

「あー、頭が痛い・・・・」
「何でもう二日酔いの症状出てるんだよ・・・・」
「気持ちの持ちようだよ、多分」
「なんだその頭痛が痛いみたいな言い訳」
「うるさーい、あんまり物事考えられる状況じゃないんだよー」

そりゃああんだけ飲んでたらそうなるわな・・・・

「とりあえずさっさと寝ろ」
「えー・・・・・・うん、そうする・・」
「・・・ヤケに素直だな・・・」
「いや、そろそろ本気で歩くことが難しくなってきて・・・」
「・・・・飲み過ぎだ馬鹿・・・」


とりあえず、なぜか一緒にされた部屋に入る
うん、ちゃんとベッドは二つあって両サイドに離れて置いてある

彼女は「ね?」と言っているような顔でこちらを向いている
まあこのままダブルベットが部屋にどかーんと置かれてたら正直どうしようとか思ったが


とりあえず一言二言話したのち、そのままベッドに入って眠りに落ちた






東雲はロストが眠りについた後も少しだけ空を見ていた

「・・・月綺麗・・・」

でもこんな月夜はあの日のことを思い出して嫌だ
「・・・寝よう」







眠りの中、頭の中に浮かぶあの日の風景
さらさらと草が流れて、雲はゆっくりゆっくりと海の向こうへ
風はそのまま何処へと誘うのか

そしてその風景は一瞬にして赤く、消えていった


目の前に広がる黒く焦げた建物、そしてそこに倒れる人


叫び声とか、うめき声とか、耳をふさいでも聞こえてきて


思わずその場にしゃがみ込んだ


気付くと焼けてドアの無くなった玄関に人の影があった


どんな闇よりも真っ暗で、その手が掴んだ物は私にとって大切な物で


なによりも大切な・・・・






「・・・・はあ、はあ、はあ・・・」

気が付けば全身に冷や汗をかいて、鞘に収まっている刀を持ち、半身を起きあがらせていた、長い髪が無造作に毛布の上に広がりながら

「夢・・・・か・・・」

あの日の悪夢、未だに頭の中に残るあの光景、ずっと掴んであげられなかった、大事な物、何で抱えてあげられなかったんだろう、そういう感情が頭をぐるぐる駆け回る、そしてそれはいつしか体から溢れ出す

「・・・どうした?」

向こうのベッドからロストの声が聞こえた

「あ・・・起きちゃった?」
「いや、なんか妙にうなされてるみたいだからどうしたかと思ったんだけど・・・」
「ううん大丈夫大丈夫、じゃ、おやすみっ」
「・・・・普通に涙出てるぞ、大丈夫じゃないだろお前」
「え、あ・・」

まずい、無意識のうちに涙出てた
とりあえず涙を拭い

「だ、大丈夫、泣いてないってば・・・」
「・・・動揺しすぎだ馬鹿」
「だから馬鹿じゃないってば」

ロストはふぅと溜息をついた後

「・・・で、何で泣いてたんだよ、そんないやな夢だったのか」
「うーん・・・嫌というか・・・思い出すの辛い事かなあ・・・」
「・・・聞かない方がいいよな」
「・・・出来れば聞いて欲しくはない・・・かなぁ」
「・・・・そうか」



しばらく無言の時間が続く
そして東雲が語り始める

「私さ・・・弟居るんだ」
「へえ・・・」
「でもね・・・あることがあってさ・・・生き別れ状態なのさ」
「・・・・・」
「多分、この世界のどこかにはいるんだろうけど・・・ホント、何処に居るんだろう・・・」
「・・・色々大変なんだな」
「まあねえ・・・・とりあえず、今は弟探しの旅をしてるわけで」
「世界中をか?」
「世界中を」
「てかそもそも出身何処なんだ?」
「・・・・ファーブッド村・・」
「あー・・・あの結構昔に大災害のあった・・・てか相当遠いな・・・」
「うん、大陸一周位はしてるかも・・・んで、あの騒ぎのあたりで色々あったわけよ・・」
「ふーん・・・・てか自分で聞くなって言っておいて喋ってるじゃねえか」
「うるさい」

でもさっきまでの不安感、恐怖心はもう無くなっていた

聞いてもらって嬉しかったのかもしれないし・・・ただ一緒にいるだけで幸せなのかもしれない・・・
とにかく、今は少しだけ幸福感に包まれていた

「まあそんな夢見た後だから寝れるか分からないけど・・・おやすみ」
「ん・・・おやすみ」





あの夢自体は週に一度は見ている、その日は寝ないで、ぼーっと空を見上げたり、酒飲んでたり・・・寝るのが怖かっただけど今日は・・・少しだけ勇気を出して・・・

「寝不足で明日ふらふらしてるとか嫌だしね・・・・寝よ・・」







眠りについて、もし夢を見たとしても
それが怖い夢だとしても
夢から醒めて、隣のあなたの存在を確認すれば
それだけで不安は吹き飛ぶだろう
この時はまだ分かっていないけど、この頃から
一緒にいたい、そういう気持ちだけはあった

月夜は更けて行く

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