ふわりふわりと宙を舞い

強く強く地面を蹴りだして

さらに高く、高く、高くと

いつかあなたへと届くように

いつか空をも掴めるように








夜も明けた暁、2人は朝早くこの街を後にした
東雲がこの村の特産の地酒を5瓶ほど買おうとしていたが、流石にそれもって街まで歩くのはやめとけ、重いし、と思いとどまらせた・・・まあ隠れて一升買ってたけどな、それでも。


「うー・・・頭痛い・・・・・」
「・・・だから呑みすぎなんだって・・・」
「だってぇ・・・ここのお酒ホントに美味しいんだもん・・・」
「だからって二日酔いするまで呑むなよ馬鹿・・・」

凄いだるそうに歩く、明らかにつらそうだが

「ねー、支えてくれてもいいじゃんか・・・」
「無茶言うな」
「いや、わかってたけどさあ・・・」


そりゃあ分かってて言ってますけどねえ・・・・

「まだ少し曇り気味だからいいけどさあ、滅茶苦茶快晴だったら死ぬよ?私」
「・・・・なんか殺しても死ななそうなんだけど・・・お前」
「失礼な、私だって死ぬときは死ぬってば」

そんな会話を繰り返し、昼頃には調子も戻ってきて
日も暮れかけてきた頃には、視界に街が見えてきた

「あー、街見えてきたー」
「目的地の街のミルキーだ、本気で遠かったな・・・・」
「ここって確かこの大陸で唯一闘技場あるんだったよね?」
「あとあるっつったら・・・海越えた先のコヴォマカにあるぐらいだな・・」
「ふうん・・・毎日やってるのかなあ、大会とか」
「どうだろうな・・・見てみないとわからねえからな・・・あと、ああいうのはある程度地位高くないとエントリーすら出来ないって話だし、結局俺らには関係のない話だって事だ」
「まあまあ、試しに近くまで行って見ようよ、明日でも」

・・・・参加したいんだな・・・
何となくだが、そう感じたロストだった
そして、街へ入り、取り敢えず宿を探す二人

「うーん・・・・何処も高いなあ・・・流石都会だね・・・」
「だな・・・昨日の宿屋の倍の値段だぞ・・・」

そしてふと、街が騒がしいのに気付く
何十人かの人々がしきりに屋根をみあげ、怒鳴りながら走っている
そして屋根を見ると月明かりではっきりとは見えないが、誰かが逃げているようだった
そしてその集団が近づくに連れて声が聞こえてきた

「てめー!俺の最高級ワイン返せ!」
「ダイアの指輪ー」
「あたしのネックレス返しなさいー!!」

・・・・・・理解した、泥棒だ


「・・・にしてもさ、あの泥棒さん、凄い身軽だよね」
「人間あんなジャンプできるのか・・・?」

その泥棒は、まるで重力が無いかのように地面を蹴り、どんどん屋根から屋根へと移っていく、それは鳥のように、蝶のように、蜂のように

どんどんこちらへ近づいてきて、泥棒の方が何故か、地面に降り
瞬く間に二人の間を抜けていった

そして目の前には無数の人、もの凄い形相で走ってくる
流石に命の危機を感じて、二人は道の端へ逃げる

「・・・・すごいな・・あの集団は・・・」
「だね・・・本気で焦った・・・」
ふと、東雲が異変に気付く

「あー!!あたしの懐中時計とお酒!」

多分あのすれ違った瞬間に取られたんだと思う
あの一瞬で盗むというのは相当な腕なんだろう
・・・と、感心している場合じゃなく

「追いかけなきゃ!・・・てか何でロストは盗まれてないの?」
「アホか、同業者だぞ、すれ違い様の盗みなんてコツ分かってるからいくらでも防げる」
「あ、そっか、一応盗賊だもんね」
「一応ってなんだ一応って」
「だって優しすぎるし、盗賊にしては」
「・・・・・・嬉しくないぞそれ」
「えーもうちょっと嬉しがってよ」
「なんでだよ」
「てか、さっさと追いかけよう!」
「無視かよ」

とりあえず、追いかけ始める、多分あの集団を追っていけばそのうち追いつくだろう、そしてさっきからロストがちらちらと遠く向こうの方に視線を送っていた
まあ特には気にせずにそのまま走るが、そのうち

「・・・・見失ったみたいだね、あの人達も」
「・・・どうするよ」
「あの懐中時計、家族の写真入れてあるのよ」
「・・取り返すしかねえだろ」
「・・・・・うん」



改めて、作戦会議を行う

「で、盗賊として、追っ手振りきったら、何処へ逃げる?」
「そうだなあ・・・・さっき来た道を戻って・・・落ち着くまで潜伏するかな・・・・」
「なるほどね・・・隠れられそうなところは・・・」
「あの時計台の中とかな」
「あー、あそこなら目立たないし、中は暗いだろうし、見つからないかも」
「てか、さっき入って行ってたぞ、あの泥棒」
「・・・へ?・・・・相当向こうだよね、時計台って」
「だろうな」
「何で入っていったの見えてるの?」
「ああ、俺視力だけは相当良いから」
「へえ・・・・知らなかった・・凄い特技じゃん」
「まあな」

少し自慢気だったのはおいといて
ふと街の女の人に話しかけられる、ロストが当然後ろに下がっていたが気にしない

「あなた達もなんか盗まれたの?」
「あ、はい」
「あの泥棒さんね、ここ2ヶ月ぐらい現れてるんだけど、大体盗まれた物は戻らないぐらい捕まらないし、凄腕みたいよ?」
「はあ・・・」
「あ、でも一般の家には入らないで旅人からとかお金持ちの家に入ったりするってのは聞くわねえ・・・良い泥棒なのかも知れないけど、盗みはよくないわね・・・」
「ですよね・・・・」
「まあ、あんたたちも諦めなさい、多分戻ってこないわよ」
「そうですか・・・・ご心配有り難うございます」
「それじゃあね」

「・・・・・お前結構ちゃんと敬語使えるんだな」
「敬語ぐらい常識でしょ」
「いや、普段の行動が非常識だからな」
「うるさいなあ・・・」

とりあえず犯人がいると思われる時計台へ向かう

そして時計台中

中は歯車仕掛けの、何ともレトロチックな場所だった
チクタクチックタックと時を刻む、規則的に、一寸の狂いもなく
ただただ刻むのだ


そして、ふと奥に人影を見付けた


「(いたね)」
「(不意打ちしないと取り返せないだろうな・・・・)」
「(・・・・行くよ)」

東雲はこっそりと背後へと歩みを始める
そして、一気に距離を詰め、刀を鞘に納めたまま首の後ろに打ち込み、気絶させようとしたが・・・

「・・・!!」

やばっ、気付かれた!

でも、さらに驚いたのはその泥棒が・・・

「嘘っ、女!?」

しかし、そんなことお構いなしに蹴りが飛んできて
とっさにガードする、が

「くぁっ!重た・・」

蹴りの重さが半端じゃない
というか、明らかに常人離れしていたその重さ

東雲が一瞬ひるんだその隙にその泥棒は逃げようと出口へ向かう

が、そこにはロストがいる
とりあえずライフル使うわけにも行かないので、その長い銃口で打撃を加えようと相手に対して振るう、が

その軌道上にいたはずの泥棒が、それが当たる瞬間に銃口を片手でつかんでその場でくるんっと、宙を舞った

「んな!?」

不意をついたまま泥棒はそのまま出口へ駆け出そうとするが
ふと背後に風を感じた、振り向くとそこには、さっきひるませて振り切ったはずの・・・

「奥義・・・花美月っ!」

滑るように移動し、遠心力を使って思いっきり振り切る
ホントに斬る訳には行かないので峰打ちだけれども

「かっ・・・」
「ロスト!取り押さえて!」
「無理!お前やれ!」
「・・・ああもう!それぐらい我慢してよ・・・」

とりあえず、すぐに東雲が駆け寄り、押さえ込む

「さて・・・盗んだもの返して貰おうか」
「・・・・・・」

普通にそっぽ向かれる
泥棒の見た目は白いセミロングの髪に赤い瞳
見た目は自分たちより年下に見えた
とりあえず、柱に縛って動きを封じた

「・・・・まあ、返す気無くても良いけど・・・そのまま帰るし」
「ちょっと!それじゃあ私の懐中時計どうするの?」
「放置」
「・・・怒るよ?」

そんな感じで漫才まがいの言い争いをしていると泥棒がふぅと溜息をついて

「わかった・・・返すから、この紐ほどいて」
「逃げないか?」
「逃げないよ」

泥棒はそのまま言葉を続ける

「てかだれかに捕まったら怪盗稼業止めようと思ってたの、だから今こうやって捕まったから終わり」

まあ大体小規模で動いてる泥棒は金に困ってやってるという理由だったりする、だから止めるやつはすっぱりやめるのだが・・・

「良いのかそれで」
「うん、別にいいよ」

とりあえず紐をほど・・・・くのは東雲に任せた
実際、泥棒はもう逃げようともしていなかった



「はい、懐中時計、大切な物だったのね、ごめんね?」
「あ、ども・・・うん、凄い大切な物・・・まあ、だったら盗まれないで持っておけって話だけどね」
「そう言うこと、そこのお兄さんなんか凄いガード固かったよー」
「ああ、ロストは同年代の女に触られるのが嫌いなだけ」
「へえ・・・珍しい体質だね」

そう言いながら泥棒はわざとさわりに行く、そしてロストは一気に後ずさった

「わー・・・傷つくー・・・」
「でしょ?結構毎回ショックだよ、これ」
「・・・・仕方ないだろ・・・本気できついんだから・・・・」

なんか可哀想になってきたというか、飽きたというか
よく分からない空気が漂い始めたので話題を変える

「んで・・・何で泥棒やってたんだよ」
「まー、まずお金無かったし、怪盗とか格好いいかなあとか思ったし、後この街、金持ちとかシルククラウディネス関係者が多いから金目の物あるのよ」
「シルククラウディネスか・・・あれだっけ、なんか災害とか戦争とかあったときに出てくる部隊だっけか・・・」
「そう、それ、実際闘技場もシルククラウディネスの人専用みたいなもんだからね、それで稼いでも良いんだけどさ、一般の人でても勝てないしさ、相手が戦闘集団だし」
「なるほどな・・・・でもあの身のこなしは相当勝ち進めるんじゃないのか?」
「まあねえ・・・でも目立っちゃうのさ、この”重力の魔法”は」
「魔法?」
「そ、魔法・・・・って、信じてないでしょ、君」
「そりゃあな」
「もう、夢が無いなあ」
「夢とかそういう問題なのか・・・?」
「さあ?」

なんというか、物凄くつかみどころが無い奴だと思った
ことごとく反論がかわされる

「でもロスト、結構いるよ魔法使える人って」
「そんなお前は見たことあるのかよ、現実に」
「うん、私の知り合いにいるもん、普通にさ」
「ほら、オレンジ色の彼女もそういってるじゃない」
「・・・・・もういい・・・勝手にしてくれ・・・」

それでなくても慣れない同年代の女性が2人いる時点で物凄い気疲れするのだが・・・・
そう思い、ロストは大きくため息を吐いた


「でも・・・これからどうしようかなあ・・・・怪盗辞めたからここにいる理由も無いしなあ・・・」
「じゃあさ・・・私達と旅しない?」
「「え?」」

ロストと泥棒が同時に固まる

「ちょっとまて、俺も数に入ってるのかそれ」
「うん」
「・・・・だから俺は花火を買いに来ただけだと・・」

しかしロストの主張は華麗にスルーされて

「うーん・・・暇だし・・・・・行く」
「・・・行くのかよ」
「いいじゃん暇だし、久々に強い奴に出会えたし」
「そうそう、そんなに気にしてたら若白髪生えてくるよ」
「ちょっと待て、どんどんさっきから酷い言われようなんだが俺」
「大丈夫、悪意まったく無いから」
「そっちのがタチ悪いっての」

そんな言い合いをしていると、ふと柱の上にある歯車が動き出し、ガガガガと音を立て
そして時計台の鐘が鳴る、ゴーン、ゴーンと

「ああ、そうだ、名前聞いてなかったね、お二人、名前は?」
「私は東雲・胡蝶蘭、んでこっちがロスト・・・・・・えーっと・・」
「ロスト・サンセットだ、てか前お前に教えてたはずだぞ、俺」
「だって人の名前覚えるの苦手なんだもん」
「あたしはアリカ・トワイライトヴュウ、よろしくね、しのちゃんにロストくん」
「よろしくー」
「だから俺は花火買ったら帰ると・・・二人とも聞いてねえな、完全に・・・」

ふと窓を見ると外は薄明るくなってきていて

「もう夜が明けそうだ・・・宿代浮いたな・・・」
「そこはラッキーだけど明日寝不足になりそう・・・」
「ここで寝ていけば?あたし基本ここで寝泊まりしてるし」
「あ、じゃあそうするー」
「・・勝手に決めるなよ・・・まあいいけど・・・」

目の前で妙なテンションで喜ぶ二人にあきれつつ、時計台の鐘を見上げた
ふわりと、風が吹いたような気がした


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