その人は剣士でした

その人は何かを探していました

その人は私と似ていて異なっていました

その人は多分誰とも混じらない黒い瞳をしていました

その人はその瞳で何を見たのでしょうか






次の日の朝

とりあえず少しの仮眠を取って朝の日差しを浴びながら時計台を後にする

「さーて、闘技場にでも行こうかー」
「マジで参加する気か?」
「まあ最悪観戦でも良いけどね」
「せっかくだからあたしも出るかなぁー」
「勝手にしてくれ・・・」
「あれ?ロストくん元気無いね」
「女二人に囲まれちゃテンションも下がるっての・・・」
「で、やっぱ参加料とか取られるのかなあ?」
「どうだろ?」
「・・・・やっぱそのままスルーかよ」

ロストの受難は続く、多分この先ずっと・・・・本人は嫌だろうが

そしてしばらく歩くと闘技場が見えてきたが、流石に大きい

「うわ・・・でか・・・」
「そりゃあでかいだろうよ」
「てかシルククラウディネスの隊員多いなあ・・・・黒服の全部そうだよ」
「へえ・・・あ、今日の大会の詳細書いてる」

『参加料
一般・・・3000ブラー
シルククラウディネス隊員・・・100ブラー』

ちなみに宿屋の代金の平均が200ブラー

「・・・・ここまで露骨に安くしなくても・・・てか3000とか高・・・・」

ロストが唖然としながら嘆く

「・・・さすがに一般人のあたしとしてはこれは高いわ・・・」
「・・・・・ロスト」
「なんだ?これでも参加する気じゃないよな?」
「・・・100ブラーはあるよね?」
「まああるが・・・おまえシルククラウディネスじゃないだろ?」

そう言って横を見るとなにやら道具袋を漁っている東雲

「えっと・・・確か入れてたはず・・・あ、あったあった」

そう言って道具袋から出てきた・・・・黒服

「やっぱ出るなら安い方が良いよね、じゃ、エントリーしてくるー」
「・・・待てや」

そう言って受付へ向かおうとする東雲を呼び止める

「なにさ、早く行かないと受付終わっちゃう」
「なんで持ってるんだよその服」
「何でって・・・秘密」
「秘密ですむわけねえだろ!」
「いいじゃんか、後で話すからさー・・・あ、そうそう、これは外していかないと・・・これ持っててー」

そう言って左腕に付いてた紅い腕章を外してロストに預ける

「んじゃ、受付してくるー」

そういって東雲は走り去って行く


残された二人は・・・

「・・・あいつ何者だよ・・・」
「この腕章って・・・確かシルククラウディネスの隊長クラスの人が付けてるやつ・・・・・なんで持ってるんだろう、これを・・・」
「・・・・・本人に聞くしかないな・・・」
「ねえロストくん」
「ん?」
「・・・参加しようと思ってたけどこの値段の高さで思いとどまったよ・・・流石に」
「そうしてくれ・・・・」
「賞金の2万ブラーは魅力的だけどね・・・魔法封印してやると流石にきついもん・・・・」
「だろうな・・・・」




そうこうしているうちに、東雲がエントリーを終えて帰ってきた

「ただいまー、ついでに剣買ってきたー」
「剣って・・・お前刀あるじゃねえか」
「切り札は最後にとって置くものじゃん、刀使ったら普通に勝てそうだもん」
「その自信はどこからくるんだ・・・・」
「んー、今までの経験で、んじゃ、行ってくるー応援宜しくねー」







観客席にはいると、結構人もいるもんで

「こんな人居るもんなのか・・・闘技場って」
「結構居るんだよねー、他人戦ってるの見ると楽しいしね」
「そんなもんなのか」
「ロストくんだってあるでしょ?猫と猫の喧嘩みて楽しいなあとか思ったりすること」
「それは無い、猫は無い」
「いいや、あるね、ロストくんならありそうだ」
「ねえよ」


会場に開始を告げるアナウンスが響き渡る
さっき見た限りでは参加者は16人程度、やはりあの参加料では集まらないようだ、東雲の出番を確認しようとしたが名前が見あたらなかったのが疑問に残る
そして、何個かの戦いが終わり、次の戦いのアナウンスがされる

『次はバレンス・ブレイドライドvsカザネ・サンセットです』

「・・・・サンセット?」
「そう言ったね・・」
「まさかと思うが・・・・」

そこに出てきたのは・・・オレンジ色の長髪を黒服の中に隠している
紛れもない東雲・胡蝶蘭だった

「・・・・人の名前を・・・・・」
「まあ、本名だすとやばいんだろうね・・・」




「・・なんだ、相手はただのヒョロッ子か、こりゃあ楽勝だな」

対戦相手、バレンスが東雲を見ながら余裕な笑顔で言う
そして戦いのゴングがなり
バレンスが東雲への先制攻撃を仕掛けようとその拳を振り上げ間合いを縮めるが・・・
次の瞬間、目の前に東雲の姿はなく、頭上から強い衝撃を受け、そのままその場に倒れ込んだ

「・・・・やば、簡単に倒しすぎたかも・・・・」

『しょ、勝者、カザネ・サンセット!』





場内が少しどよめく

「・・・・・・しのちゃん強いねえ・・・」
「・・・・・・本気であいつ何者だよ・・」

今もの凄く気になるあいつの正体
今まで何をしてきたのか、何で黒服を持っているのか、自分で数日限りの旅と言った筈なのに、まだあいつに聞きたいことが多すぎる
何故か、一緒にいたいと、ふとそんな気持ちがよぎった













場所は変わって
とある建物の中

「えーまた闘技場の警備っすかぁ?」

黒髪に赤いメッシュを入れた男が溜息をつきながら言う

「仕方ないだろう、闘技場には自分の腕に自信があるやつが集まる場所、暴動が起きた時のために強い警備は必要だ」

薄黄色の髪の、整った顔立ちの男が冷静に言う

「私はグォーヴァー様が付いてこいと言うのであれば地の果てまでも!むしろバージンロードまでも!」

藤色の髪を左側に束ねた、やたらハイテンションな女がさりげなく問題発言しながらも言う


「・・・・・おー」

さっきの女とそっくりの、髪は右側に束ねてる物静かな女が同意なのかよく分からない言葉で言う

「・・・ったく面倒だなあおい・・・」

金髪のショートカットで、目つきの鋭い男がめんどくさそうに言う

「・・・それじゃあ行きましょうか」

桃色のウェーブのかかった髪を後ろで結んだ大人しそうな女が言う

闇のにおいがその場から消えた










「あー疲れたー」
「疲れる以前に瞬殺だったろあれは」

観客席まで戻ってきた東雲に冷静につっこみを入れるロスト

「いやあ、久々に刀じゃなくて剣使ったから加減できなくて」
「そういえば刀どこにやったの?」
「ん、背中に隠してる」

そういって、背中から刀を取り出す、前々から思ってたが凄い長い
普通の刀の1,5倍ぐらいありそうだ

「ホントは背中にかけるの嫌いなんだけどさ・・・腰痛くなるから」
「腰痛くなるって・・・」
「持ってみれば分かるって」

そういってロストに刀を渡す、が・・・

「・・・・ちょっとまて、何kgあるんだこれ」
「確か20kg」

素直に唖然とした
もう驚くことは余り無いだろうと思っていたのに、ホントにこいつは人の驚くことばかりやってくる

「そんな重たいと絶対振り回せないだろ・・・・」
「もう慣れたからなあ・・・じいちゃんに剣習ってる時から重たい刀持たされてたから」
「おじいちゃん?しのちゃんの?」
「うん、小さい頃ね、ついでに合気道習ったり・・・・ホントに大変だった、あの頃は・・・」

東雲がだんだん遠い目になってきているので話を戻す

「それであんな強いの?」
「いや、それだけじゃないんだけどさ、まあ基礎はこの頃身に付けた」
「へえ・・・・」

暫くすると場内アナウンスが聞こえてきた

「あ、じゃあそろそろ戻るね、応援よろしくー」

そういって彼女はこの場から去って行った


「・・・・ねえロストくん」
「ん?」
「何かしのちゃん負けない気がしてきたんだけど・・・・」
「というか明らかに勝つ気だなあいつ・・・・・」



そして二人の予想どおり、そのままどんどん勝ち進み、ついには決勝まで来た
周りのざわめきがどんどん大きくなっていく

「やー、ついにここまで来たよしのちゃん」
「ほぼ全試合瞬殺だしな・・・・」

なんというか、驚きしかもう出てこない
ただ素直に見守るぐらいしか出来なくなってきた


『決勝戦ー!カザネ・サンセットvsディン・レッドダイアモンド』

「・・・ディンってさっきから剣使わないで勝ってるあれか?」
「何か強そうだったよね、確か」
「まあここまで来て負けることは無いだろう」





そして試合は始まる
東雲は今までの試合と同じように先手必勝で仕掛けて行く
大体の相手は、そのスピードで一瞬戸惑い、動きが止まるので、剣を鞘に納めたままで殴打して勝っていた、最小限の攻撃で相手をしとめるのはこれが一番だった

が、しかし



がきぃん
と、その攻撃は相手の顔の目の前で防がれた

「さすがに決勝だと一筋縄で行かないか・・・・」

一旦離れて、再び攻めようとしたが、ふとあることに気付く

(あれ・・・・、あの剣どっかで・・・・・・・・・・・あっ!)

そのことに気付いた瞬間、東雲の体は宙にあった
一瞬で間合いを詰められてそのままふっ飛ばされていたと気付くのに少し時間がかかった
とりあえずとっさに受け身を取って、立ち上がる
よく顔を見る、フードに隠れて良く分からないが、ふとのぞく赤い髪
漆黒の黒い瞳、そして背中に担がれている馬鹿デカイ剣


「・・・・・ちょっと待って・・・何でいるんですか・・・・・・・ガイアさん」

ぴたっと、相手の動きが止まる

「・・・・その声・・・・東雲だな」


当然観客席からはその会話は聞こえない

「何か動き止まったぞ二人とも・・・」
「どうしたんだろ・・・・」





そして東雲は手に持っていた剣を捨て背中から刀を取り出す

「もー・・・・普通に手加減しても優勝できると思ったんだけどなあ・・・」

今まで隠してた長い髪の毛を出したあたりで場内のざわめきがいっそう強くなる、そしてその髪の毛を後ろの方で束ね

「・・・あなた相手なら本気出さないと勝てないじゃないですか、絶対」




赤く紅い風は、突然の再開を運んできた


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