この人はあの人と仲がよかった

この人はあの人の良きライバルだった

この人はあの人が消えたときひどく悲しんだ








場内がざわついている、そりゃあ決勝まで来た奴の一人が女だと知れば驚くのが人間ってものだろう

「刀出したぞあいつ・・・・・」
「本気出すのかなあ、そうなると」

そう言った直後、試合が動き出した
さっきまでの動きとは比べ物にならないぐらいの速度で


まず最初に仕掛けたのは東雲、左手に鞘を持ち、そのまま一瞬で間合いを詰めての居合い斬り、だがそれはそのまま空を斬った
すぐに背後からの気配を感じ振り向きざまに刀を振る
しかしそれもガイアの剣に防がれて

・・・・・いつ以来だろう、ここまで本気で戦えるのは
いや、たぶん本気でやらないと瞬殺されると思うけど

少し間合いを取った後、ふうっと息をついて集中する

そして前方をきりっと睨み付ける
空気が一瞬変わる、風向きが少し変わった



そして彼女はその風に乗ったようにひらひらと舞う
まるで蝶のような、花びらのような美しい舞

予測できない動きに一瞬相手の動きが止まる

その舞はひらひらと相手に近付きすれ違い様に一閃
どんなものよりも綺麗な一筋の斬

「ハナビラの舞・・・・・ってこれが利いたら苦労しないよねえ・・・」

予想どおり、この一閃はガイアの肩をかすめただけだった
そして一瞬の休息も無いまま反撃が来る

その自分の刀より相当重そうな大きな剣を片手で振る腕力に相変わらず驚きが隠せないが、刀で受け流しながらかわしていく

(やばいかも・・・)

受け流してはいるが、さすがに全ての衝撃を受け流すことは出来ず
手にも刀にもダメージが溜まる
さすがにそろそろ持たないだろう


次が最後のチャンスかな・・・・


刀を構え直す
ふと、あの頃のことが頭をよぎった









『だから・・・・相手をよく見て・・・こう』
『すいません、わかりません・・・・先輩』
『んーまあこの辺慣れだからね・・・そのうちできるようになるよ』
『そう・・・・・ですかね』







あの人は今どこにいるのだろう、目の前のガイアさんなら知ってるのだろうか、多分、誰にも告げずに何処かへ行ったのだろう、そういう人だったから、人には余り頼らない人だったから





今ならできる気がする、あの時には出来なかったあの技が




相手を正面に見据えることを忘れずに
そのまま、体は宙へ

雪のように優しく空を舞い
月のように鋭く体をひねり
花のように美しく空から咲き誇る

「雪月花」

一瞬空気が止まった気がした
そして、次の瞬間



からん



しーんと静まり返った場内に金属音が鳴り響いた


















「グォーウ゛ァ隊長」
「なんだリディス」
「闘技場のことなのですが、出場者に東雲・胡蝶蘭らしき人物がいるとの連絡が」
「・・・・わかった、警備してるユリィら7人にも連絡を入れろ」
「自ら赴かれるのですか?」
「ああ」

そういって男は足のひざほどまである黒いコートを羽織って立ち上がる

「お前はここで待機してろ」
「了解」

男はそのまま闘技場へ向かった・・・・・・・・・キックボードで

「・・・・・隊長のあれだけが理解できません・・・・」

眼鏡の女性は冷静に、だけど少しため息をつきながらそう嘆いた









「・・・・・あー、やっぱあの人のようには行かないか・・・・」

柄の上から折れた刀を見つめて東雲は嘆いた

「いや、見事だった、俺の剣にヒビ入れるとは・・・・」
「でもこれ以上やっても素手で勝てる見込み無いですし・・・参りました」



「勝者、ディン・レッドダイヤモンド!」







「・・・・」
「・・・・・凄かったねえ・・・」

観客がぞろぞろと帰って行く中、まだ余韻に浸っているロストとアリカ
とりあえず東雲帰宅待ち

強いとは思っていたが、あそこまで自分と差があるとは思いもしなかった
何が彼女をあそこまで強くしたのだろうか

「強いな・・・・」
「だね・・・・・」


そうしているうちに東雲が帰ってきた

「ただいまー、とりあえず準優勝賞金いっぱいー」
「・・・・・案外準優勝でも結構な額もらえるんだな・・・」
「だねー、こりゃあ闘技場で生計立てる人出てくるのも無理も無いね」

なんだかんだでのんびりしてる3人

「そういえばあの男強かったなあ・・・」
「あー、あの人昔から強いよー」
「・・・・知り合い?」
「うん」

「どういう・・・・って東雲後ろ!」
「え?」

後ろに立ってたのは赤いメッシュを入れた黒服の男
見た目は自分達よりも少し若そうだった

「てめーが東雲か」
「あー・・・・えっとどちら様?」
「ふふふ、よく聞いておけ、俺様の名前は・・・!」

そういって羽織っている黒服をばっと広げ

「ノスタル・シエルフランだ!ホントはここで捕まえろとの指示だが、さっきの試合を見て負かしたくなった!というわけで勝負だ!」


・・・・・・・・

「・・・すっげえ自信満々だな・・・」
「というか何か妙に偉そう・・・・」

「うーん・・・・まあ・・・いいけど」
「よし、さあ刀を取り出せ!」
「ごめん、刀は折れた」

そういってさっきの戦いで根元からない刀を見せる

「なにぃ!しかもその柄、名刀花鳥風月じゃねえか!昔かの有名な刀鍛冶のファーオレンジが一本だけ恋人に作ったといわれる幻の一本!」
「・・・・・・・剣のマニアか、こいつ」
「ああ、俺は今まで数百本の刀を集めてきた・・・・それが人のものであればそいつを負かして奪ってきた・・・」
「・・・微妙な悪どさだな・・・」

東雲の後ろでロストがため息をつく
正直関わりたくないタイプの男だった

「とりあえず、素手でもいい、勝負だ東雲!」
「・・・うーん、素手はなあ・・・アリカー、何か武器になるもの持ってない?」

うーんと言ってとりあえず見渡して見つけたものは・・・・うちわ

「団扇でいい?」
「うん、ありがと」
「明らかに武器にならないだろそれ」
「まあそうだけど、これでいい?・・・・・えっと・・・」
「ノスタルだ!・・・・・・それで勝とうというならいいが、これで貴様の勝てる確率は0になったわけだ」
「まあいいよ、これで、んじゃ行くよー」

そういって、向かって行く
ノスタルが、一瞬タメを作って一閃

「おおー、速いねえ、意外と・・・・でも」

その剣筋の途中に剣を蹴りあげ、団扇(縦向き)で思いきりバーンと
流石に面積狭いのでダメージが多そうだ

「うそん・・・・・・」

がくっ
意気込んで挑んできた割にはあっけない幕切れだった

「・・・・団扇で相手失神させれるか、普通・・・・」
「いや、まあ事実が目の前に・・・」

団扇で刀に勝つ女、何かもの凄いシュールなのはなぜだろう

「さて、逃げた方がよさそう、何か捕まえるとか言ってたし」
「というかお前一体何したんだ、何者なんだ」
「あー、んーとね、元々諸事情でシルククラウディネスに在籍してたの、私」

東雲の語りが始まる

「んでちょっと色々あって、抜けて、一回在籍したら簡単に抜け出せないからさ、これでも結構国家機密情報とか入ってくる組織だし、だから追われてるんだよねえ、特にこういう黒服さん達集まる場所にいると速攻バレるし」

少し衝撃的な話だった、でも今まで疑問に思ってたことが一つの線で繋がった

「んでシルククラウディネスの中でも特に強い7人が腕に黄色い腕章付けることになるんだけど、私そのノスタルって人みたいに黄色い腕章持ちだったから・・・なおさら抜けると追われると言うか・・・」

そりゃあつよいわな・・・・

「んでさっきの決勝の相手、本名ガイアって言うんだけどね、あの人もその時の知り合い」
「なるほどな・・・でも何で偽名だよ、お前偽名使ってる理由は分かったけど」
「さあ・・・?そこまではわかんない・・・とりあえず早く逃げよっか」
「ここは逃げるのが得策だな」

とりあえず荷物全部持って、観客席側の出口から逃げることにする、既に周りの客はいなかった






そして廊下を駆け抜けながら

「あーどうしよう刀・・・・・新しいの買うにも刀高いんだよねえ・・・・」
「団扇・・・・じゃ流石になんともなんないよね」
「・・・・そんな事だろうと思ってだな・・・・ほら、さっきの刀マニアが使ってた刀、あれ頂いてきた」
「おー・・・・・初めてロストの盗賊らしいとこ見たよ」
「そんな頻繁に見せれるもんじゃねえだろ」








闘技場の外

「おいネール、現在の東雲の位置は西か東か北か南か」
「東」

監視カメラの動画を映しながらネールが答えた

「となるとここから出てくるか・・・・」

そうグォーウ゛ァーが考えてると肩を叩かれて
振り向くとネールは画面を指差していた

「ん、どうした・・・・3人写ってるな・・・・」

これは何人か囮になって逃げられる可能性が・・・・

そう思い、グォーウ゛ァーは無線を取り出して

「ディジュディリ、ユリは東出口へ向かえ、スオウは西出口へ、ノスタルは南出口へ、フロルは北出口へ、以上」

再び肩を叩かれる

「・・・・ノスタルは」

そう言って画面を指差す

「ノスタル?・・・・・・ノビてるな・・・・既にやられたか・・・」











「なんかさ、足音増えてきたんだけど」
「・・・気配も明らかに増えてるな・・・・出口で待ち構えられてるかもしれないな」
「まあそんときは強行突破といこうじゃない、ね、しのちゃん」

そう言ってるうちに目の前に金髪の男が現れて

「見つけたぞ東雲・・・・って・・・」

その視線の先は東雲じゃなく・・・・・

「ディジュディリ・・・・なんでお前が・・・」

同じく驚きの声を上げたのが・・・・ロストだった




出会いは何度でも繰り返す


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