「船ってどれくらいに出てるんですか?」
「大体一日に1本だな、例外はたまにあるが」

シールラ村へと向かう山中の道、一人増えた旅のメンバーで下って行く
相変わらずロストはむすっとしてるし、ジュリちゃんはやっぱはずかしいのか、ずっと下を向いている。

「そういえばジュリちゃんはこういった旅って初めて?」
「うん・・・・だから今少しわくわくしてる・・・」
「盗賊で活動してる時はたまにみんなでこうして歩いたけどな、あれは基本的に夜だから」
「というか盗賊としてはどうだったの?やっていけてたの?ロスト」
「まあ飯食えるぐらいには、女性相手だとあいつらに任せたけど」
「ロストくん、それを世間一般ではへたれと言うんだよ」
「うるせえよ」

みんなでジュリちゃんを馴染ませようと会話を弾ませる、一人参加してこないガイアさんは何か考えてるようだった

「どうしたんですか?」
「いや・・・どんな言い訳しようか・・・って考えててな」
「?」

昨日からたまにガイアさんはこんな感じでたまに上の空になっている
コヴァマカで誰か待人でもいるのだろうか、でも多分何を聞いても詳しくは教えてくれない、まあ、きっとそのうち分かるだろうと、今は楽観して考える事にする



そして数時間後、ついについたシールラ村の港
しかし、肝心の船が見えない
何事かと思ってその辺の人に聞いてみると、どうやら朝一でシルククラウディネスの一行の本部への帰宅に使ったらしく、そのため明日まで船が帰ってこないらしい、なにもこんな予想外のところで旅の妨害をしなくても・・・・故意じゃないとは思うけど

「・・・どうしましょ」
「・・・どうしよう・・・」

若干ガイアさんが動揺してるんだけど、ある意味とてもレアな状況
周りを見るとロストは興味なさそう、アリカちゃんはジュリちゃんと会話をしている、さてこの後どうしようと考えていると、港の奥の方が何やら騒がしかった


「どうしたんだろうな、ま、関係ないだ」
「行ってみよっか東雲ちゃん」
「うん、そだね」

見事にロストの発言を遮ってわたし達二人はその騒動の現場へ向かった、
多分ロストも後から着いてくるとは思うから




どうやら騒動の中心は港沿いの喫茶店らしい、人込みをかきわけて見てみると、なにやら刃物を持った中年男性が一人、小さい子供を抱えて叫んでいる。とりあえずすぐに強盗が人質とって何かを要求してるというのを理解した
もう少し前に行って会話を聞いてみると

「てめえさっさとこの店にある金全部もってこいっつってるだろ!」
「わ、わかったから、とりあえずその女の子を離すんだ!」
「このチビガキは金と交換だ、わかったらさっさと出せ!」

「・・・どうしようしのちゃん」
「どうしようって・・・・助けた方が良いよね・・?」

助けようと思い、戦闘体制に入った時、人質の女の子が口を開いた

「おじさん、そろそろ離してくれない?」
「ああん?おめえは黙って人質になってりゃいいんだよ!」
「もう・・・そろそろ暑苦しいのっ!」

そう言って次の瞬間、強盗が宙をぐるんと回った
それが女の子の見事な一本投げだと気付くのに少し時間がかかった

とりあえずすぐさま床に転がった強盗を取り押さえ、この騒動は解決した。
そして綺麗に片付けられた喫茶店で

「いやあ、すごかったねえ、あの見事な一本投げ」
「だってあのおじさんオヤジ臭かったし、生理的に受け付けなかったんだもん」
「まあ明らかに嫌な感じだもんね、あたしもああいうの嫌ー」

さっきの強盗を一本投げした小さな女の子、名前は千空・現(ちそら・うつつ)というらしい
頭にドクロマークのバンダナをし、オーバーオールを着た、身長は・・・多分130cmぐらいだと思う、左右の目が違う色をしていて、なんだか不思議な感じだった

「ところで千空ちゃんはなんでここに?」
「いや、うちの船員がブレイブって人のここでの演奏見たいっていうからこの喫茶店にいたんだけど・・・ほら、カウンターに座ってる4人がそう」

そういうとカウンターの5人が手を挙げた
見たところ多分私より年上だとは思う

「えっとね、右の黒髪がライアス、横の金メッシュがカユ、紺色のおっさん臭いのがジャン、何となく影薄いオーラ出てるのがアイシュ」
「んーっと・・・・まあとりあえずそれは置いといて」
「覚えれなかったんだろ馬鹿」
「馬鹿じゃないもん、で、船員って?」
「ああ、あたし達海賊というか、海を支配したいと言うか、まあこうして船旅やってるんだ」

・・・・・若干予想外の答えが帰ってきたが
まあとりあえず悪い人たちではなさそうだ、でも船あるならもしかしたらコヴァマカまで乗せてもらえるかもしれない
物は試しと思って聞いてみる

「あのさ千空ちゃん、私達コヴァマカ目指してるんだけど、なんか連絡船行っちゃったらしくてね、よかったら乗せてもらえない?ダメなら無理にとは言わないんだけど」
「あ、全然okだよー、旅は道連れ世は情けだしねー」
「ありがとー、ガイアさーん、乗せてもらえるそうでーす」
「そうか、すまんな」

一人奥の席でコーヒーを飲んでるガイアさんに呼びかける
若干笑顔が見えたのは気のせいだろうか
というかレアだなあガイアさんの笑顔


と、喫茶店の明かりが暗くなって、片隅のステージにスポットライトが当たる、そこにアコースティックギターを持ってテンガロンハットっぽいものを被った前髪の長い多分同年代ぐらいの男の人が座る、そしてそのまま一礼をして、音を奏で、歌い始める
なんというかその音色と、その詞の世界観にあっというまに引き込まれるような歌声、
歌詞の内容は、自分に自身の持てなくて、嘘で塗り固めていた主人公が、恋人に支えられて、でもその恋人との別れがやってきて、そして今、心からその人を恋人と言えるという歌だった
頭の中にイメージがそのまま浮かぶような、少しリアルな世界観
だけど不思議な世界だった。

その後も何曲か歌い、そして時間はあっという間に過ぎて彼の演奏は終了した


「やー、久々に良い演奏聞いたー」
「お前、音楽とか聴くのか?そうは見えないけど」
「失礼な、ロストこそ聴くのー?音楽とか」
「いや、ほとんど聴かねえな」
「あたしは結構聴くよー、たまにああやって街に吟遊詩人とか来てたりしてたし」
「俺も残念ながら・・・ああ、よくあの男は歌ってたか・・・でも聴かないから聴いてないな」
「・・・私も・・・初めて・・・」

あらためて、店の外に出て、みんな様々に感想を漏らす
昼になって、気温は少し暑くなって、港町だけあって潮風が気持ちいい

「じゃ、出発しよっかー、天気もいいし、いい出航日和だー!」

船に乗せてもらい、さあいよいよ出発
・・・と、下ので叫んでる人がいるのを見つけた
あれ、さっきの吟遊詩人さんだ

「すいませーん、この船どこいきますー?」
「コヴァマカだよー、乗るー?」

千空ちゃんがそれに答える、結構乗せるのにノリノリである
若干他の船員が呆れた顔をしているが、この際気にしない事にした


「いやあ、助かった、何か今朝の船もう行っちゃったらしいね」
「そうなんですよねえ、ホント臨時の事態って一般市民には迷惑ですよねえ」

潮風が気持ちのいい海の上、船なんて久々に乗ったわけで、ほんとにこの風は気持ちがいいと思う
せっかくなのでアリカちゃんと一緒にさっきの吟遊詩人さんと会話を弾ませる

「さっきの歌、ホント良かったです、久々にあんないい歌聴けました」
「そうそう、今まで聴いた中でもトップレベルかも」
「いやいや、ほめてもらって光栄だよ」
「お名前は?」
「ブレイブ・アルエレム、まあ一期一会だろうけど宜しく」

「こうやって世界中旅してるんですか?」
「うん、各地で唄を歌って。昔はとある街を中心に歌ってたんだけど
その街、天災で無くなっちゃって、それからは世界中を旅してる、あの子に負けないように」
「あの子?」
「恋人なんだけど、数年前に俺が旅立ってから、音信不通で」

若干さっきよりも語る目が優しくなった気がした、いや、それまで目つきは別段普通ではあったけど

「俺がいってた街が色々あって出ることになったんだけど、それから連絡つかなくて・・・今となっては会う事は難しくなるだろうね」
「そうなんですか・・・」

人探し・・・私も、自分の弟を探して、だけど会えるかどうかは分からなくて、こう語ってはいるけど、内心とても辛いだろうと思う。

「その子の名前は?」
「リリィ、下の名前は確か・・・ホワイトべリィ」

















































所変わって、シルククラウディネス本部




「あー、疲れた・・・まさかあそこであいつに会うとはな・・・」
「知り合いでもいたのか?ディジュディリ」
「いや、こっちの話だ、スオウ、てかほかのやつらは?」
「フロルは隊長にお茶出しという名のストーキングに、ネールはしらん、ノスタルはまだ部屋で伸びてて、ユリィはなんか資料室に行ったぞ」
「へえ・・・まあいいや、俺も部屋で休むわ」
「おう、お疲れ」




そして資料室

「・・・やっぱり無いか・・」

どこかの街の住民票をぺらぺらとめくり、ため息をつく
ここにはこの世界で一番色々な資料が揃っている場所、外には漏れては行けない機密情報や、歴史の裏側、各国の新聞など、ここに無いものは無いというほどに全てが揃っている場所、当然入れる人物は限られている
そんな場所に、ユリィ・アルジェリアはいた
一通り目を通して
そのまま住民票をそこにしまって部屋を出る


「ユリィ」

呼び止めたのはグォーヴァー隊長の秘書のリディス・ウィルレイン

「あ、リディスさん、どうかしましたか?」
「資料室の鍵はちゃんと閉めましたか?」
「はい、どうも有り難うございました」
「探し物でもあったの?」
「いえ、たまに色々新聞でも見てみようかと」
「あらそう、腕章付きの隊員はいくらでも使っていいですからね」
「はい、わかりました、では」



軽く会釈してその場を後にする、そのまま自分の部屋に着いて、鍵を開けて、暑苦しい黒服を脱ぐ





「はあ・・・やっぱり見つからない・・・」

新聞なんて読むもんか、というかあの日から新聞とか大嫌い
あの日、あの街が消えたあの日から、私にとっての生きるすべてを奪った、あの日から

あのニュースを思い出す、
『本日早朝、アローズ地方ポルポタにて、大火災がありました、死傷者3万人、鎮火にも時間がかかり住民のほとんどが死亡した模様です』

死んでいるなんて思いたくない、いつものように何処かの街にふらっと行っていて欲しい、あの日にあの街に居たわけがない

束ねている髪の毛を下ろして、ベットの上に寝転がる

ホントは不安、とても不安、もしも死んでると言う証拠が出たら?
イヤ、そんな事考えたくもない、もしも死んでたら・・・・

「ねえ・・・恐いよ・・・ブレイブ・・・」



ユリィ・・・いや、リリィはそのまま、目を閉じる
今は世界のすべてを見たくない


あの頃に戻りたい

戻れない

だけど、今の世界にあなたはいるのだろうか

もしもいないのならいっそこのまま

二度と目が覚めなければいいのに

ずっと夢の中であなたと過ごせればいいの

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