ゆっくりでいいから

君が本気で笑って泣けるような

地図にも無い場所へ




とある日の夜、喫茶店で演奏を終えた後
俺・・・ブレイブ・アルエレムは
リリィと二人で帰り道を歩いていた
やっぱり女の子と歩くのは若干緊張する

「あの、次の土曜日って開いてますか?」
「ん?別に予定は無いけど」
「じゃあ、ピクニック行きませんか?」
「ああ・・・いいけど・・」
「よし、じゃあお弁当作っていきますね!」

ピクニックか・・・・
ピクニックなんてホントに小さい頃に何回か行ったことしかない、というかこの年このご時勢にピクニックってのもどうなんだろうか・・・
それでも若干楽しみなのは気のせいなのか・・・

そのあとも少し喋り、彼女を宿まで送り、家に帰る
そしてあっというまの土曜日
夜には喫茶店のバイトがあるため昼の間だけのピクニック

行き先は少し遠めの丘の上にある公園
ピクニックなのでそこまで歩いて向かう
こちらの持ち物は少しの飲み物とギター
なんというか、ギターは持ち歩いてないと落ち着かない、自分でもたまにおかしいと思うんだけど、落ち着かない

休日だったけど、不思議とそんなに人はいなく、そよ風が心地よく
絶好のピクニック日和だった


「んー、風が気持ちいい〜」
「まあ雨降らなくて良かったな」

彼女が持って来たビニールシートを芝生の上に敷き
とりあえずぼーっとする、たまにはこんな休日もありかと思う
しばらく会話も無く、そのまま空を見上げていた

「あ、私ちょっと向こう行って来ていいですか?」
「ん、いいけどどうした?」
「いや、四葉のクローバー見つけようかなあって・・・」

四葉のクローバーか・・・小さい頃は探したなあ・・・
こういう事もいままであまりして来てないんだろう

とりあえず俺はそのまま横になってしばらく目を瞑った
小鳥のさえずりなどがほのかに聞こえて、他には何も聞こえない
この心地よさもいいなあ・・・ってさっきから何度も思っているが














にしても今日は本当に天気がいい
風の音も町中とは段違いに綺麗だし、自然の音、川のせせらぎなど
全てが綺麗な音だ



と、その風に乗って
凄く、凄く綺麗な音
一瞬それが歌声とは分からないくらいに、自然に
日頃から自然と聴いているような、そんな音で

すぐさま飛び起き、音の元を探した
一目惚れ・・・いや、一聴き惚れとでもいうのだろうか
とにかく、自分にとって今の歌声は衝撃的だったのだ

音はまだ続いていて、少し歩けば、すぐに音の主は分かった
そこで見たのは、四葉のクローバーをとても楽しそうに探して
囁くように歌を口ずさむ、自分が良く知っている桃色の髪をした女の子
彼女の回りでは風も楽しそうに踊り、草もさらさらと舞い、ハーモニーを奏でる

しばらくその場に佇み、少しすると彼女がこちらに気付いたのか、ふわっと振り向いた
いつも見なれているはずなのに、なんだかとても綺麗に、まるで初めて会った時のような、そんな感じ


「あ、ほら四葉2個ありましたよー」
「う、うん・・・」

無邪気に微笑む彼女を見て一瞬見惚れてしまい、まだなんかぼーっとしている
彼女も不思議そうにこちらを見て

「ん?寝起きですか?なんかぼーっとしてますけど」
「ああ、うん、そんな感じ・・・」


人生、一瞬一瞬何があるか分からない
それこそ、人が誰かに恋に落ちる瞬間など、ほんの一瞬なのだ
今、それを心から実感した
多分、恋をした
あの歌声の持ち主に、たったそれだけだけど、俺は彼女に恋をした

「さっきの歌・・・」
「あ、すいません、聴こえてました?いつも喫茶店でブレイブさん歌ってるの聴いてたら覚えちゃって、あとなんか四葉のクローバー探してるとうきうきしちゃって、つい口ずさんじゃいました」

ああ、そんなほほえみで返されたら

「とりあえず、そろそろ昼食にしましょうか?」
「あ、うん、そうするか」
「頑張って作ったんですよー、おにぎりとかサンドイッチとか」
「・・・おかずは?」
「タコさんウインナーとか卵焼きとか作りました、いっぱいありますから沢山食べて下さいね!」

そう言って彼女は駆け出す

出発した時よりも何か随分と彼女に対する気持ちが変わった気がする
俺はただ、彼女にとってこの街で一番の知り合いだった、ただそれだけだと思っていた

まあでも、悪い気はしないし、なんか少し楽しくなって来たし
今はまだこの距離で、不確かだけど、誰にも邪魔されない
この距離で

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