それから数ヶ月経った日のことだった
あの、大火災があったっていう日は

その日、ふとテレビを見て、必死であの街に向かって、そこで想像以上の参上を見て、私は叫び続けた、彼の名前を必死で叫び続けた


今でも死んだなんて信じてない、絶対どっかで生きてる
心の中でそう信じたい自分、だけど明らかにその後の生活は気力を無くした

元々二人の思い出の部屋は一人じゃ辛くて、私は引っ越しをしていたのだが、その直後の事だったから、部屋に一人でいるのがこんなに辛いと思わなかった、昔の私は寂しがったりしなかったとおもうけど、心にポッカリと穴があいてしまった私には、どの部屋も広すぎた



そして、何時ものように淡々とバイト先で働いていて、仕事の終了時間を迎えた時、一人のお客さんに呼び止められた
少し薄めの茶髪に無精髭、サングラスというなかなかに怪しいカッコの人だった

「はい、なんでしょうか」
「今大丈夫か?リリィ・ホワイトベリィ・・・いや、リリィ・アルジェリー」
「・・・何でその名前を・・・父の差し金ですか?」
「いや、別にそういうわけじゃねんだ、ただあんたをスカウトに来た」
「・・・なんのですか」
「シルククラウディネスってのは知ってるか?」

シルククラウディネス・・・たしか
この国の色々なものを守ったりする自衛隊のようなものだったはず・・・
でもそんな人が何故ここに

「一応は、知ってますが」
「あんたの一家の事は知っている、うちへ来ないか?」
「今はあの家と何の関係もないので、戻る気もありませんので」

そういい残し、席を立とうとすると

「ポルポタのあの事件・・・」
「!?・・・何か知ってるんですか!?」
「知ってるって言ったら・・・どうする?」
「教えて下さい!」
「・・・残念ながら、詳しい事は知らん、だけど、とにかくあの事件は一般的に報道された事以外に国家機密があると言うのは聞いた・・・・・うちの本部の情報資料室にはこの国の機密情報が沢山貯蓄されてある、見れるのは隊長クラスの人間のみだがな・・」
「・・・つまり、入れってことですか?そして隊長まで駆け上がれと」
「そういうことだ、最近ちょうど隊長クラスの人間数名が辞めててな、お前のその実力なら大丈夫だと思うがな」
「・・・それって組織としてレベル若干低くないですか?」
「あくまで護衛だからな、役目は、相手を殺すわけじゃない、そんなの国の親衛隊にまかせておけばいいんだ」

確かに一理ある、それでも私レベルで隊長クラスねえ・・・・いや、ホントここ数年前まで稽古付けだっただけあって、相当強くはあるんだけれど・・・・ホウキで暴漢倒せるし・・・ブレイブの前じゃやりませんけど・・・


「隊長クラスにならないとその機密みれないんですか・・?」
「ああ、あとは秘書だが、今はもういるからな」
「あの、何者ですか?」

さっきから色々喋っているが、明らかにただのスカウト人とかでは無い

「ああ、俺はシルククラウディネスの総隊長のグォーヴァー・ネイティス」
「総・・・!あ、えっと・・・・」
「急に緊張しなくてもいい、あんまりかた苦しいのは好きじゃない」
「あ、はい・・・・」
「で、どうだ、悪い条件じゃないとは思うが・・・ただ、抜ける時はそういった機密を持ってるわけだから、簡単には行かないとだけ言っておく」

簡単に抜けられない・・・か、でもこのままこうやって暮らしていても彼の手がかりはつかめないし、
でもこの人が総隊長だとするとなぜ事件のことについて知らないのだろうか
興味が無いだけなのか、それとも・・・
とにかく今は後先の事を考えずに、手がかりを探したい、気付けば私はその条件をのんでいた









そして数カ月、なんとか隊長まで上り詰め、今日もこうして情報室の資料を漁っているのだが・・・・

「・・・ないなあ・・・・」

入ってもう1年近く経つのかなあ・・・手がかりは何もつかめぬまま、むしろ警備系の仕事ってこんなにこの世の中に溢れているんだなあと思うほど、仕事漬けの毎日だった、ここまで忙しいなんて聞いてない・・・
でも、部屋に戻ると私はギターの練習をしたり、唄の練習をかかしたことはなかった、これだけは続けなくちゃね。一応部屋は防音仕様らしいので大丈夫、ノスタル君とかデスメタルだかっていううるさいのをいつも聴いてるってフロルに聞いたし。

はあ、今日も手がかり無しか・・・と思ってると、後ろから声をかけられる

「あれ、どうしたんだこんなところで」
「あ、ディジュディリさん」

一応同じ隊長クラスのディジュディリさん、私が入って来た時にはもう隊長で、普段はそこそこ喋るくらい、接点はほとんどない

「あまりこう言うところにいるイメージじゃないですよね、ディジュディリさん」
「・・・馬鹿といいたいのか?」
「いえ、そういうわけじゃないんですけど」

でも結構な頻度で私もここに来てるがあまり見かけた事が無かったから
何の用だろう・・・

「いや、これ見つけたからあんたにって」
「え?・・・これって・・!」

渡された資料の中には、事件当日のシルククラウディネスの行動予定表と、死亡者リスト、ブレイブの名前は・・・無い!

「これ何処で・・・!」
「奥の金庫室、相当な重要機密っぽいな国にとって」
「でも何で私がこれを探してるのを・・・」
「明らかに棚とかの資料の入れ方がこの事件関連のものだけ荒くなってたから、てか以外と几帳面ではないんだな、お前」
「ほっといてください!・・・いや、すいません、本当に有り難うございます・・・でもそういった普段との違い分かるってことはディジュディリさんも結構ここ来てるんですか?あまり見かけませんけど・・・」
「ああ、俺は夜来る事が多いから」

それはあまり出会わないわけだ、夜は大体ギターに触ってる事が多いから
でも気になることはやっぱり・・・

「ディジュディリさんも何か探し物ですか?」
「うん・・・まあそうだな、人を探してて」
「そうなんですか・・・・一応私も・・・」
「だろうな・・・そんな死亡者リスト探すくらいだもんな」
「そちらの方は見つかりそうですか?」
「いや・・・ったくあの人はホント自由人だからなあ・・・・」

自由人か・・・・
彼も自由に世界を回りたいって言ってたなあ・・・・
いつかまた逢えたら、それに付いていくのも悪くないかも・・・
とりあえず、生きてる可能性は出て来たから、あとは探すだけ
見つけたい、絶対に

「んじゃ、今日はなんかもう見つからないから俺は帰る、じゃあな」
「あ、ありがとうございました!」

なんか、心の中がすうっと晴れた感じ
不安が希望に変わった、生きてるかもしれないって言う可能性だけでも、今の私には大きな光に見えて
自然の笑みがこぼれる

あとは、彼を探すだけだ


































視点は東雲たちの乗ってる船に戻る
外は既にもう夜で、周りはシーンとしている、まあ海のど真ん中だから当然なのかもしれない

ずっと固まってるのもどうかと思ったので
特にまとまって行動するわけでもなく、各自思い思いに過ごしていた

「静かだねえアリカちゃん」
「風情があるねえしのちゃん」

船の横の方で黄昏れているのは東雲とアリカ、若干ほろ酔い気味
船の中のお酒はおいしかったらしい

「ほら、月も出ててね、海に反射してるよ」
「ホントだねえ、頭上手く回らないけど・・・・ところでしのちゃん」
「ん?どうしたの?」
「どうして旅してるの?」
「んーっとね、弟、弟探してるんだ、昔生き別れになっちゃって」
「大変だねえ・・・・まあ私も似たようなもんか」
「弟?」
「ううん、私は兄貴、突然ふといなくなっちゃって、どこでなにやってるんだか・・・」
「そっか・・・お互い頑張ろうね」
「そうだね」

少女たちは月を見ながら、風を感じる








「ん、さっきからこそこそしてどうした」
「・・・明らかに見えない角度にいたのに気付くのかよ・・・」

こちらは船の後ろの方、ガイアとロスト
思えばあまり話したことも無いのだが、今日は違った

「で、どうしたんだ?」
「いや、あのさ、護衛術教えてくれないか」
「そのライフルは飾りか?」
「飾りじゃねーけどさ、ほら、近距離潜り込まれると対策できないから」
「なるほど、それで格闘技か」
「あんたらなそういったのを指導するのも上手そうだし、あいつに習うと何か悲しくなるし・・・・」
「・・・3日だな」
「3日?」
「いや、教えてやるが、3日で覚えろってことだ」
「・・・スパルタの予感」
「それは当然として、とりあえず時間が惜しい、はじめるぞ」

そしてこっそりと特訓が始まる
あいつに守られるんじゃなく、せめて守る力が欲しい




「何見てたのー?」
「月・・・」

こちらは船の高台、そこでぼーっと空を見上げていたジュリに千空が話しかける。

「夜の海はホントに月が良く見えるんだよー」
「綺麗・・・でも・・・少し・・・寒い」
「あー、ここ高いから寒いしね・・・んと、これあげるー」

そう言って千空は自分の首に巻いてたマフラーを外し、ジュリに巻いてあげる

「あったかい・・いいの?」
「いいよいいよ、船の中戻ればまだあるし、乗った記念ってことでー」
「ありがとう・・・」

しばらく二人で空を眺めていると千空が一言ぽつりと

「・・・まあたとえそれがどんな結果になろうとも、やる気なんだね?」
「・・・・うん」
「・・・ま、一度の人生、自分で道を決めればいいよ、人に言われてやめるような決心じゃないんだろうし、じゃ、おやすみー、またね」
「・・おやすみ・・・」

夜は静かに、だけど何かを予感させるかのように過ぎていく








次の日の朝

「ほんと、ありがとね」
「いやいや、旅は道連れって言うし、また会ったら乗せてあげるよー」

無事にコヴァマカの隣街、ヴァレンシアにたどり着き、ここで千空たちとはお別れ

「そういえばブレイブさんは?」
「ああ、ギターの彼ならさっさと降りて行ったよ、みんなによろしくってさ」
「ふーん、また会えるといいねえ」
「聞きたいよね、あの歌声」

彼もまた自由に旅をしているのだろう、皆探し人を見つけられますようにと
私もがんばらなくちゃ

「今日は快晴、きっといい事あるよ、頑張ってねー・・・・ってロストがボロボロだけどどうしたの?」
「あ、ホントだ、どうしたの?」
「いや・・・なんでもない・・・」

言えない・・・・・・スパルタっぷりが予想以上で体中痛いとか、それ以前にこの特訓のことを他言したくない・・・・

「まあいいか、頑張れ少年、それじゃ、またねー」
「うん、じゃあ、またねー」

千空たちの姿が見えなくなるまで手を振り
そして一行はこの街をそのまま通り過ぎ、コヴァマカにたどり着こうとしていた





「コヴァマカに住んでるんですよね、ガイアさん」
「コヴァマカか・・・何か商店とかがよくあるって噂に聞くけど・・・なぜこんなところに・・・」

みんなからの質問にも若干反応の薄いガイアさん、というか何か凄く早歩き
まるでみんなを置いていこうとしているくらいに

「ちょっと、早いですって、一人で行く気ですか?」
「出来ればそうさせてくれ・・・」

素直に言ったよこの人、絶対なんかある・・・
そこでやっぱりアリカが

「ねーねー、あれだ、女でしょ?」
「・・・・」
「図星ですか?」
「・・・・」

無言、何か本格的に怪しい・・・
するとガイアさんは分かれ道で立ち止まり、こっちを向いて

「お前らが行くのは向こうの道だ、こっちに寄る必要は無い」
「・・・何でそこまでコヴァマカに行くの拒むんですか?」
「寄る必要ないからだ、歴史的にも」
「いいじゃないですか、寄り道こそ旅の楽しみですよ?」
「何も無いからな、この街には」
「そうやって運命の道を勝手に変えちゃ駄目だって」

あきらかに最後の声にびくっとしたガイアさん、
街の方から歩いて来たのは紫色の綺麗な髪をした華奢な女性で
彼女は透き通るような声で言葉を続けた

「みなさんようこそコヴァマカへ、そしておかえりなさい、ガイアさん」

彼女はきれいな笑顔で、そう言い放つ、不思議とその言葉にはなんというか、強さを感じた、優しそうな声なのだけど

「・・・えっと・・・知り合いですか?、ガイアさん」

ガイアさんは、ため息をついてぽつりと一言

「・・・・同居人のシエルだ・・・」

その言葉に少しの沈黙が出来て・・・

「「「・・・・・同居人!?」」」



快晴の空の下、この出会いが、答えへと繋がっていく。


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